祈り 〜 Birthday 〜
小さな村が、かつて、そこにはあった。人々は
ささやかな幸せを願い、慎ましやかに暮らしていた。
しかし、穏やかな日々は、儚くも悪夢によって引き裂かれる。
突如として襲いかかった魔物たちに、なすすべもなく
村人達は惨殺され、何処からともなく上がった火の手は
空を焦がすかのような勢いで瞬く間に村を包んだ。
闇夜がすべてを飲み込み、村は一夜にして灰燼に帰したのだ。
数年後。
魔物たちの報復を恐れ、近隣の村からも見捨てられた村は、
弔うものもなく、朽ち果てるがままとなっていた。
その、廃墟と化した教会に、今夜光が舞い降りる。
蝋燭に照らされた祭壇に、ひとつの影が浮かび上がる。
月の光を浴びて跪くのは、背に純白の翼を持つ女性。
俯いたまま、両手を組み、微動だにせず祈リ続けている。
時折吹き込む風が蝋燭の炎と髪を揺らす。
星の囁きが聞こえそうな程に辺りは静寂に満ち、
それさえなければ、時が止まったかと思えたことだろう。
闇の彼方から足音が近づき、やがて戸口で止まった。
「…ラビエル?」
呼びかけに、女性はゆっくりと顔を上げる。立ちあがり、
振りかえると、戸口に1人の男性が佇んでいた。
「ここにいたのか…。」
黒い髪に菫色の瞳、白い肌に線の細い体。
その男性は、天使がこの地上で最も良く知る人間の1人である。
「はい、クライヴ。」
逆光で影になる天使の顔は、微笑んでいるようにも
泣いているようにも見えた。
「何をしている?」
天使は、ややためらった後に口を開いた。
「…感謝していたのです。」
クライヴは怪訝そうな表情を浮かべた。
「感謝?」
「はい。」
両手を組み合わせ、天使は空を見上げる。
「私が今、ここに居られる事を、神に。それから…」
天使はクライヴをの瞳を正面から見つめ、言葉を続ける。
「あなたが産まれ、今を生きている事を、ご両親に。」
クライヴの肩がぴくりと揺れる。
「…それは」
天使は静かに顔を横に振る。
「それから…」
1歩1歩踏みしめるようにゆっくりと歩き、クライヴの
目の前で立ち止まる。
「こうして」
天使は両手を伸ばすと、クライヴの手を取った。
「あなたの傍に居られる事を、あなたに。」
頬を朱に染めて柔らかく微笑む。
「誕生日おめでとうございます」
クライヴは掴まれた腕と共に天使の肩を引き寄せる。
そして耳元に口を寄せ、囁いた。
「・・・・・」
彼女にしかその言葉が聞こえないように。
-END-
(NO.63 由鷹 様からのコメント)
(^^;;…失礼致しました〜。