2月16日=クライヴの誕生日です。
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん……。」
「レゼーヌ様ぁ。何を唸っているんですかぁ?」
久々に休暇を与えたフロリンダがレゼーヌの長〜い溜息の理由を聞きます。
「フロリンダ〜。今日はクライヴの誕生日なんですが……私何をあげればいいのか分からなくて。」
「……別に物じゃなくてもいいと思いますよぉ。最近移動ばかりしてますから一日お休みをあげれば
いいと思いますぅ。」
「お休み……ですか。でも、今はクライヴ森を移動中なんですよね。……でも、今から何かを用意
するよりいいかもしれませんね。」
レゼーヌが行ってしまってからフロリンダは首を傾げました。
「……レゼーヌ様、今までに誰かの誕生日に物をあげようとした事ってありましたっけ?」
「クライヴーーー!! 誕生日おめでとうございますー!!」
彼女は空から俺の名前を叫びながらやって来た。
「…………。」
「おめでとうございます。クライヴ♪」
「誕生日……今日か……。」
当然の事ながら俺は忘れていた。そんなものは今の俺には関係のないものだ。
「……忘れてましたね。で、今日はクライヴの誕生日を記してプレゼントを持って来たのです。」
まさかこの歳になってまで誰かから誕生日プレゼントをもらうなど思っても見なかった。
それも天使からだ。
「それはですね〜。今日一日お休み権です!!」
「身体が訛る。」
「それでですね。今日は私が同行しますので、何かやって欲しい事があったら何でも言って下さい。」
それでも彼女はずばずばと話し始めた、こうなると人の言葉に耳を傾けていない証拠だった。
仕方がないから俺も話を進めることにした。
「……何もない。」
「何かあるでしょう。せっかくの誕生日なのですから。遠慮せずに、さあ。」
「……散歩に付き合ってくれないか?」
「……この前は街を歩かないかと言ってましたが……。」
だが、森の中を移動している途中に他に何をしろと言うのだ。
「あれは途中でだめになってしまったからな。」
「はあ、でもその後私が誘いましたよね。」
「…ああ……だが何でもしてくれるのだろう?」
「ええ……分かりました。行きましょう。」
深い森だったおかげで日差しが入ってこない、俺にとっては幸いだ。
いつも人の姿を取って横を歩いている彼女が急に立ち止まった。
「……どうした。」
俺も立ち止まった。暫し、下を向いていた顔を上げて彼女は言った。
「クライヴ……手をつないでもらえませんか?」
「…………。」
何を言われたのか分からなかった。
「……あ、すみません。私がしてほしい事を言ってどうするのでしょうね。クライヴの誕生日なのに。」
今の様子からすると自分でも何を言っているのか分からなかったらしい。
慌てて俺の横を通りすぎようとする彼女の手をひいた。
「え、あの、クライヴ?」
「……これで、いいか?」
殆ど無意識のうちだった。何故自分は手を取ったのか、この血に濡れている手で。
しかし彼女にはそんな俺の考えなど分かるはずもなく。礼を言ってきた。
「はい! ありがとうございます。」
今までに見た事のないほど至福に満ちた顔をして。
「クライヴ…少し手が痛いのですが……。」
「!……すまない。」
気が付いたら俺は彼女の手を強く握っていた。少しでも離してしまったら消えてしまいそうだった。
それでも笑っていた。眩しいほどに。
「クライヴ?」
何も言わなく、立ち止まっている俺が気になったのだろう。首を傾げ顔を覗き込んでいた。
今日くらいは俺も夢を見ていてもいいのかもしれない。
「なんでもない、行こう。」
「はい♪」
「聞いても、いいか?」
「ええ、かまいませんよ。」
「……何故手をつなぎたかったんだ?」
「………何故と聞かれても……。」
レゼーヌは本当に答えを持っていなかったのです。
「ただ、何となくつなぎたかった。……それしか言えないんです。」
「そうか……。レゼーヌ…………ありがとう。」
「? クライヴ、どうしたのですか? 私はクライヴにお礼を言われるような事は何もしてませんよ。
逆にお礼を言わないといけないのは私の方です。手をつないでくれているのですから。
ありがとうございます。」
つないでいる手を顔の前にやって来てクライヴに見せます。
「君はこうして俺といてくれている、それだけでいいんだ。今日と言う日を俺は決して忘れない。」
「……そう言ってもらえると嬉しいです。」
レゼーヌは手をつないだ時のような顔をします。
「あ、見てください。泉がありますよ。」
木漏れ日が水面に反射して光っています。
「…………。」
「ん? どうしたレゼーヌ。」
「……きれいですね。」
一言一言に思いを込めて言います。
「ああ、そうだな。」
「少し休んでいきませんか?」
「…別に構わないが。」
レゼーヌはそのまま泉の方へ歩こうとしますが、クライヴが前へ進まないのでレゼーヌも進めません。
「クライヴ……歩いてもらえませんか?」
「……水は苦手なんだが……。」
「え、そうなんですか!? すみません、そうとは知らずにここで休みたいだなんて言ってしまって。
先へ行きましょう。…!?」
慌てて方向転換をした為足が縺れて倒れます。
しかし、手をつないでいたのとクライヴがもう片方の手で受け止めたおかげでなんともありませんでした。
「大丈夫か?」
「……はい。……すみません。ご迷惑をおかけして。」
体制を立て直そうとして手を放した瞬間引き寄せられ、気付いた時にはクライヴの腕の中にいました。
「クライヴ?」
「少し…このままでいさせてくれ。」
「……はい。」
どれくらいそうしていたでしょうか。深い森がさらに少し暗くなりました。
「……すまない。」
それだけ言うとレゼーヌの身体を引き離してまた手をつないで歩き出します。
「クライヴ……。」
「いや、すまない。もう何もしない。」
「え、そうではないのです。……あの、ありがとうございます。」
「……ありがとう?」
「はい、自分でもよく分からないのですが……なんだか嬉しかったので。」
「…………。」
過去に誰かを好きになった事があるのにもかかわらず、鈍いレゼーヌです。
「クライヴ……今日はいい日でしたか?」
上目使いで見てくるレゼーヌ。
「……ああ。……もうこんな時間か、君は帰るといい。」
「ええ、そうですね、分かりました。それではクライヴまた明日。」
仕舞っていた翼を出し、軽く地面を蹴り上げ空高く舞いあがりました。
もし、俺と彼女の思いが同じだったら……俺は……。
……それにしても何故あんなにも鈍いんだ。
この想いは直接言わなければ伝わらないのか?
………俺は……君を…
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