このコーナーは、今、メーリングリストや★の世界での今話題の豆知識を紹介します。
時々、見に来て下さい。
しぶんぎ、ふたご座流星母天体関連の最近の論文を紹介(阿部新助さん)
Jweittが大塚さんが指摘した「ふたご群」分裂天体そのものを観測した論文(阿部新助さん)
小惑星と彗星(阿部新助さん)
◆Asher seminarの要約(故 高梨 雅彰さん)
◆Asher seminarの要約(岡安裕之さん)
小惑星から流星物質がどのように供給されるか(橋本岳真さん)
スウェーデンでのMeteoroids 2001の感想 (中村卓司さん)
流星物質の脱出速度について(長谷川均さん)
写真によるしし座流星群の撮影数(予想)について(伊藤大雄さん)
しし座流星群の電波観測28MHzについて(小川さん) トップへ
しし座流星群の電波観測28MHzについて(小川さん) トップへ
電波観測で、28MHzの観測では1965年生成のダストトレイルを狙っているそうです。このトレイルは1公転前のトレイルですから,流星の光度自体は暗いそうです。そうなると対地速度の速いしし座流星群において50MHzでは暗い流星まで観測することができませんから,周波数を下げる必要性が出てきたそうです。ただし,過去28MHzの前方散乱による観測は日本ではたぶんない??と思われるので現在,それが可能かどうか試験観測を重ねているそうです。
写真によるしし座流星群の撮影数(予想)について(伊藤大雄さん) トップへ
流星会議で「眼視観測併用による出現時刻決定なら、大出現時には露出時間を1分に」と提案したところ、「36分でフィルムが終わってしまうので能率が悪い」とか「2〜3分でも大丈夫ではないか」とか、「1分露出に切り替えるタイミングは?」とか、いろいろな意見や疑問が出されました。そこで、具体的にシナリオを設定して、11月18/19日に流星が1時間に何個写ってしまうのか予想してみました。
シナリオ:(1)ZHRの経時変化は Lyytinenの予報に従う。
(ピークZHRは8200。Asherの約半分の、少な目の予報)
(2)光度比は2.3(暗いといわれているので、光度比は大きくしました)
(3)撮影はF比の比較的小さい標準レンズで行う(最も標準的な撮影方法です)
(4)眼視観測で1.0等より明るい流星を6個観測する毎に1個撮影できる
(Lm=5.5等、雲量ゼロならおよそこの程度です)
(5)光度別見落とし率などは、IMOに準拠
結果:1台のカメラが撮影する流星数
HR
23時台
1
16
0時台
5
112
1時台
22
444
2時台
85
1737
3時台
127
2600
4時台
27
557
少なくとも3時台は1分に2個以上の撮影能率ですから、露出を1分に切りつめても4個以上写るコマが続出し、どの流星がどの時刻か対応づけるのが苦しいでしょう。シナリオ通りにはいかないと思いますが、HR500なら2分露出、HR1000を超えたら1分露出という目安でいかがでしょう。
シナリオをLyytinennから Asherに変更すると、1時台から夜明けまでHR1000を超えっぱなしだと思います。フィルムが何本いるのか、書くのは気が引けるので止めます。
流星物質の脱出速度について(長谷川均さん) トップへ
流星物質の脱出速度について調べて、少し関連する論文を読みましたので、紹介します。
Adolfsson, L.G., Gustafson, Bo.A.S., 1996
Dynamic and probalistic relation between
meteoroids and their parentbodies
In "Physics, Chemistry, and Dynamics
of Interplanetary Dust"
Gustafson,Bo.A.S. and Hanner, M. Ed., 133-136
# そう言えば著者のうちの一人 Gustafson は
Meteoroids 2001 に来てましたね。PN(Prairie
Netowrk)の流星軌道データのうち、
流星群 | 母天体 | 数 |
Geminids | 3200/Phaethon | 43 |
Taurids | P/Encke | 8 |
alpha Capriconids | P/Honda-Mrkos-Pajdusakova | 4 |
上の3つの軌道を過去10000年まで遡って軌道誤差の範囲で軌道計算し、母天体との軌道交差のうち相対速度の最も小さいものを調べた。計算では、冥王星を除く惑星の摂動radiation
pressure,Pointing-Robertson light drag solar
wind dragを考慮してある。母天体の軌道は、流星より精度が高いので誤差の中心のみ計算してある。流星物質の放出速度としては、ガス速度を上限値として判断条件とした。
Vg = 0.58 R^(-0.5) km/s (Delsemme, 1982)
計算結果
Tauridsは、 全てP/Enckeと軌道と交差するが、放出速度がガス放出速度の1.9
- 6 倍となってしまう。しかし、サンプル数が少ないこと及びP/Encke
は非重力効果が大きいことに注意。
alpha Capriconidsは、全てP/Honda-Mrkos-Pajdusakovaと交差する。しかし、放出速度がガス速度の6倍になってしまう。この彗星も木星に接近することがあるので、母天体についても誤差範囲を調べることが必要だろう。
Geminids 43 のうち、23 が Phaetthon と放出条件を満たして交差する。その他、1566
Icarus, 5786 Talos との交差も調べたが、Icarus
とは交差せず、Talos との交差はあったが、放出速度が、50km/sとなるので除外できる。Geminids
のうち、18個は交差した際の速度ベクトルを調べると全て、Phaethon
の昼側(太陽側)に向いている。このことは、Phaethon
がかつて彗星活動をしていて、放出されたと証拠にもなる。少なくとも3000年間は活動があり、AD
1300年まで彗星活動があったということになる。これって、どちらかと言えば
CAT天体の話をする阿部君に関連する話ですね。また、この話はどこかで見たことあるぞ、と思ったら以前に紹介した論文の改良版ということでした。以前に紹介した論文は、
http://europa/~kin/comet/CAT/phaethon_1.html
にまとめてあります。交差する流星の数がちょっと増えたところが新しいのでしょうか。
中村卓司氏のスウェーデンでのMeteoroids 2001の感想 トップへ
2、Meteoroids 2001について
○大型レーダー観測の台頭
講演内容は玉石混交でしたが、面白い話が多く大変参考になりました。とりわけ、アレシボ(プエルトリコ)、EISCAT(北欧)などの大型レーダーでの流星ヘッドエコーやTrailエコー(HROなどでの飛跡からの強いコヒーレント散乱ではなく、痕の中の電子密度の内部構造に起因すると見られる弱いエコー)は、参考になるとともに研究自体に活気を感じました。(MUでも口頭発表を2件発表しました。)。観測だけでなくシミュレーションでも、流星飛跡プラズマは高度100km付近で本質的に不安定になっており容易にFAIを起こすようなireggularityが成長することが発表されていました。
○電波(流星レーダー,HRO等)、光学観測(I.I.)の普及他方で、いわゆる以前から流星レーダーやHROなどで観測されているタイプの流星飛跡エコー(Classic
type echoと呼ばれている)
の前方散乱・後方散乱の電波観測や、I.I.ビデオによる光学観測が旧東側諸国をふくめて実にいろいろなところで観測されていると感じました。これらの多くは定常あるいは半定常観測になっているようで、電波観測はもちろんのこと、そのうちI.I.観測も眼視観測の観測時間を抜くのではと
思いました(全地球上での総観測時間のはなし)。I.I.観測もよほど観測研究対象を絞って行うもの以外は、種々の観測所の観測データベースを拾い出して研究する、、、、というようになるのではと思います。
阿部新助さん(Shinsuke Abe)・国立天文台の最新情報 トップへ
小惑星として発見されながら、その後にコマができたり尾ができたりといった彗星活動が観測された小惑星に107P/4015
ウィルソン−ハリントンや95P/2060 キロンなどがあります。小惑星なのに,彗星に突然なってしまったということですか!キロン(Chiron)は、エッジワースカイパーベルト天体が内側へ落ちてきた天体(ケタウルス天体)で、まさに彗星になろうとしている天体です。 一方、ウィルソン−ハリントンは、彗星が枯渇して死に行く彗星です。キロンは木星と土星の間付近にいて、たまたま何かの影響でCOガスが吹き出したと思われます。ケンタウルス天体がいる付近の温度は、水は氷のままですが、一酸化炭素は昇華できる温度なのです。CO(一酸化炭素)の昇華温度は
-248℃、H2O(水)の昇華温度は -121℃天体の反射率を4%(典型的な彗星)と仮定すると、
T={F(1-A)/(4?R^2)}^0.25
F:太陽定数、A:アルベド(反射率)、?:(ボルツマン定数)より
土星付近での温度 -184℃、木星付近での温度
-153℃
我々のグループでは、昨年の2月に野辺山45m望遠鏡でキロンのCOが出す電波(115GHz)の観測を行いました、が、時期既に遅く1週間積分#
しても何も受かりませんでした。
さてMMS専門家の橋本さんが詳しく書かれていますが、彗星‐小惑星遷移天体;CAT天体(Comet-Asteroid
Transision Objects)の話題が出てきたので一言。◎
CAT天体と彗星1983年のIRAS(赤外線観測衛星)による高速移動天体(彗星)探査(1.5分角/1時間より大きなの移動)が行われて、3つのアポロ・アモール・アテン型天体(Apollo-Amor-Atem
type Object)が見つかり、これらはCAT天体(枯渇彗星)と考えられています。
(1) フェートン(3200 Phaethon(1983TB))
(2) オルヤト(2201 Oljato)
(3) 1983VA
オルヤトと流星群の関係については、大塚さんが論文を出しています。
小惑星 Adonis も彗星に軌道が類似しているのでCAT候補。一方、活動度が弱く将来、小惑星になるであろう彗星として、Neujmin
1、 Tempel 2、 P/Grigg-Skjellerup、 P/Arend-Rigaux、
P/Encke彗星(おうし座流星の母天体)、 P/Wilson-Harringtonなどがあります。これらの彗星のガス活動領域は全体の0.1%以下と推定されています(Kerr
Science 227, 1985, Chamberlin et al. 1996)。この中で面白い天体は「ウィルソン・ハリントン彗星」です。1949年に彗星(1949i)として発見された後、行方不明となり、1979年に発見された
小惑星1979VA がウィルソン・ハリントン彗星と同じ天体である事が分かりました(Bowellet
al, 1992, IAUC 5585)。
「彗星P/Wilson-Harrington」と「小惑星名 4015
Wilson-Harrington」の両方の名称を持つ特異な天体となったのです。
実はこの彗星は、近日点通過距離が 1.0003117
AU(周期;4.298年)と地球軌道と交差するので、流星群活動も期待されます。(Halliday
et al. 1989 の火球(No. 498)の母天体は、Wilson-Harrington
のようです。)
私達は、日本が打つ上げる小惑星サンプルリターンミッション(MUSES-C)の次のミッション案として、CAT天体のコアサンプルリターン(或は
in situでの分析)ミッションを提案しています。ガス活動が少ないので着陸も可能ですし、彗星に最も近い始源的な天体かつ流星群との関係を調査できる好ターゲット。
◎ 彗星と小惑星
そもそも「彗星と小惑星との違いとは何か?」という事は現在でも分かっていませんが、彗星と小惑星違いを大きく3つに分けて考えてみると次のようになると(個人的に)思います。
(i)軌道の違い
小惑星の起源;2 - 5 AU
彗星の起源;太陽系外縁部
‐短周期彗星(SPC);エッジワ-ス・カイパ−ベルト天体
EKBO(30AU以遠)
‐長周期彗星(LPC);オ-ルト雲
Oort cloud(〜10000AU以遠)
(ii)形成期の物質組成の違い
太陽系の形成を考えてみると、星間分子雲から原始太陽系円盤ができ、惑星の元になる10kmサイズの微惑星がまず形成されると考えられています。このとき、原始円盤ダストは、各所でその組成比が大きく異なるという説が最近言われています。我々の太陽系の惑星をみても、内側に水・金・地・火星の個体惑星、外側に木・土星のガス惑星、さらに外側の天・海王星の氷惑星があるように、この構成物質の日心距離(円盤)依存性が彗星と小惑星の組成に大きな違いを与えていると思われます。太陽系外縁部からやってくる彗星が水氷天体の一種であることもうなずけますよね。しかし実際には、彗星や小惑星の内部の層序構造を見てみないとその違いは分かりません。
(iii)形成後の物質変成の違い
‐衝突史
‐熱 史
太陽系の外側より内側の方が公転周期が早いので衝突頻度が高く、太陽輻射による熱変成も大きく受けています。長周期彗星(周期200年以上)と短周期彗星(周期200年未満)の物質の違い(LPC
は SPC に比べて揮発性物質に富む。SPC は LPCよりも細かいダストが多い。etc.)などもこういった理由に起因するものと思われます。
短周期彗星の源であるEKBOから彗星へ遷移する段階の天体が土星軌道付近で既に10個程(ケンタウルス天体;(2060)
Chironなど)、海王星の摂動で軌道が大きく変化した
散乱EKBO (Scattered EKBO) が60個程見つかっています。
これらの天体が彗星になり、更に太陽系の内側まで落ち込んできたものの一部がCAT天体になり小惑星へと変遷するシナリオが考えられます。現在ある小惑星の一部は、彗星のなれの果てなのかもしれませんし、年間数百もある(マイナー)流星群の母天体は既に失われているか、暗い小惑星となっていて検出され難いものと思われます。
◎ ふたご座流星群とフェートンの関係
‐ふたご座流星群の母天体と同定(Whipple 1983,
Williams & Hughes 1982,1983)
‐フェートンの公転周期;1.43 年、近日点通過距離;0.14
AU
‐フェートン直径;4.70±0.5km(Green et al.
1985;1-20?m赤外観測の反射率
より)
‐直径5km足らずの天体表面にレゴリスが存在するか否かは不明。表面は、
太陽や宇宙線の照射で変性されたマントル物質で覆われているかもしれん?
‐ふたご座流星群の密度1g/cc(Verniani, 1969);岩石質か。
Harvard Meteor Program(Jacchia and Whipple,
1961) で得られた流星のうち、軌道のよく求まった20個の流星の軌道を過去に遡る計算が
Gustafson(A&A,225, 533-540, 1989)によって行われています。その結果;(光圧/重力比;通常の流星の?値は流星体を球対称とすると1e-3以下)をフリーパラメータとした数値積分モデル(9惑星摂動とポインティング・ロバートソン効果を考慮)で3000年前まで遡った計算の結果、これらの流星軌道は、数千回フェートンの軌道を交差する事が分かった。
‐彗星核と流星ダストの相対速度を指標とし?依存性を見てみると、?=1e-3
の時に相対速度が最小になる傾向があり、フェートン軌道と交差する時の相対速度が0.8km/s以下になるのは、20流星のうち15を占めていた。
‐最小相対速度と日心距離の関係を調べてみると、殆んどの流星は近日点通過付近に集中していることが分かった。彗星活動は近日点通過前後で最大になる所で、ふたご座流星群の流星体が放出されている事から遠日点付近での小惑星との衝突説は否定される。(完全に否定された訳ではなく、遠日点付近で放出された流星も1つある。)
‐彗星からの中性ガスの日心距離依存性の放出速度モデル(Gustafson
1989)と、日心距離依存性のダストの放出速度モデル(Whipple
1951)の2つのモデルと、最小相対速度と日心距離の関係を調べてみると、20個のうち16個の流星が最大放出速度(ガス速度)より小さく、更に13個の流星が、直径5kmの彗星,
放出ダスト直径0.1cm,密度1g/ccを仮定した場合のダスト放出速度よりも小さいことが分かった。このように放出速度のモデルと比較した場合、彗星活動によるものであることを支持した結果となっている。
‐最小相対速度の時点での相対ベクトルと太陽方向とを比べると、太陽側のベクトルが多い傾向にある。このことは、近日点付近での彗星活動によって放出されたことを示唆するものである。
☆ふたご座流星群の母天体は、ダストの放出場所、放出速度、放出方向の考察から、彗星活動によるものと考えられる。フェートンが母天体であることは明らかなので、フェートンは過去に彗星活動をしていたものと思われる。
☆ふたご座流星群の放出年代を推定すると、高い?(?>1e-3)の流星物質とすると、600年よりは古くはないと考えられる。
☆サイズ、密度などが観測された流星ダストに近いとすると、ふたご座流星群は、形成後1000〜2000年の流星群と考えられる。
☆フェートンと小惑星との衝突による流星群の形成論は完全には否定できないが、確立は低い。
故 高梨 雅彰さん (日本流星研究会)の◆Asher seminarの要約 トップへ
○流星物質の拡散と明るさ
これは今回のセミナーで初めて見た図版なのですが、母天体の回帰時に近日点で放出された流星物質は回帰を重ねるに連れて拡散し、さらに光圧(?)で軌道が大きくなることから周期が長くなる=母天体から遅れて回帰するということです。Asher博士はこのことをしし座流星群について図示されました。図から読み取った数値は以下の通りです。
rev# 広がり 回帰の遅れ 流星群となる期間
1 +/-
1.0year +0.4year
-0.6~+1.4year
2 +/-
2.2year +1.3year
-0.9~+3.5year
3 +/-
3.5year +2.2year
-1.3~+5.7year
4 +/-
4.7year +3.1year
-1.6~+7.8year
なおこの図はおおよそ2等級の流星に相当する流星物質についてのものだそうでこれより小さいもの(暗い流星)はもっと広がり回帰も遅れる、逆に大きいもの(明るい流星)はあまり広がらず回帰の遅れも小さいとのことです。
ちなみに今回の母天体の回帰は1998年2月28日(1998.2年)ですから、来年・2001年のしし群の極大は回帰後3.7年後に相当します。回帰後3.7年も経ってしまうと例えrev1、rev2のトレイルと接近したとしてもそこには拡散された流星体はまだ来ていないのですから流星群は起こらないことになります。Asher予測では2001年に接近するトレイルはrev7/rev9/rev4とのことですので、全て期間内に入ります。
さらに考えると、rev4は今年(+2.7年)も接近しましたが、来年の出現は今年のrev4より「暗い」ことになります。逆にrev7/rev9は(2等級基準の)回帰の中心はまだ先ですので、出るとすると「明るい」のではないでしょうか。→この明るい・暗いという説明は、今年の観測結果(rev8/rev4)から確認できると思います。rev8のピークがrev4のピークより「明るい」ようなら、上記の説明
を補強することになると思います。
○惑星摂動に起因する流星物質の分布のムラ
1998年に欧州で観測された火球雨は1333年の回帰時に放出された流星物質が惑星摂動によって集積された(拡散されなかった、のほうが正しいか?)ものが起こしたとの説明がありました。 本当はここで1965年に日本で観測された1998年の欧州に似た火球雨もこの考え方で説明できるのか、2001年以降にこのような状況が起こりうるのかを聞きたかったのですが・・・。
○過去の観測との整合
これについては岡安さん・海老塚さんからもレポートされた通りですが、過去200年(回帰数とすると6回)に観測された結果(P.Brownの論文による)とは±5分以内の精度で整合したとのことです。 200年前の観測のピーク時刻が±5分以内で決まっているとはちょっと信じ難いのですが、これが±30分以内だとしてもすばらしい一致だと思います。
Asher予測のすごいところは、比較的単純なモデルでありながら実際の結果をこれだけ見事に説明できることです。学者先生はこれを「美しい=エレガント」と表現されるようです。
○他群への応用
これについては私が吉川さん・矢野さんを通じて質問したのですが、惑星摂動を受けにくい群であれば応用可能であろうとのことでした。吉川さんは、ジャコビニ群は周期6.5年の短周期であるため頻繁に惑星摂動を受けてしまいそうだからしし群ほどうまく再現できないかもしれないとも仰っていました。 スイフト−タットル彗星とペルセウス群ならうまくいくかもしれませんね。
岡安裕之さん (日本流星研究会)の◆Asher seminarの要約 トップへ
1)テンペル・タットル彗星の回帰は1366年、1699年、1866年、1965年及び1998年に観
測されている。あと、もしかしたら1035年と1234年の記録もこの彗星かもしれない。
(2)光圧を加えて計算すると、回帰ごとに彗星とダストトレイルの距離が離れる。4revだと彗星 回帰の3年後にダストトレイルの中心が回帰する。つまり、2001年に有望な1866年のダスト トレイルは4公転目なので、彗星回帰より3年後、つまり、2001年にちょうど中心部が回帰す る。
(3)長く伸びたダストトレイルは、場所により摂動の受け方が異なり、複雑な形になる。遠方では あるが、木星と土星の摂動を大きく受ける。
(4)1969年は1932年の1revダストトレイルの中心部を地球が通過したが、流星は大出現し なかった。これは、まだダストトレイルが短く、彗星回帰の4年後まで伸びていなかったためであ る。
(5)ダストトレイルと地球軌道の会合図を見ると、1回帰ごとに規則的に並ぶトレイルとゴチャッと 固まっているトレイルとがある。前者は光圧の影響であり、後者は摂動が原因である。
(6)過去200年間のしし座流星群の極大は、全て5分間の誤差で当てることができた。2001年 と2002年のピークも、完全に当てることができる。
小惑星から流星物質がどのように供給されるかの橋本岳真さんの見解 トップへ
小惑星から流星物質がどのように供給されるか理解できないということで、ふたご群の母天体が小惑星パエトンではないかと言われていることに疑問であるということですね。確かにあの岩の塊のように見える小惑星から流星物質が供給される様子はちょっと思い描けないと思います。
そもそも、ふたご群の母天体が小惑星パエトンであると言われているのは、赤外線観測衛星IRASによって発見された1983TB(後のパエトンのこと)という小惑星がそれまで写真観測で軌道がわかっているふたご群の軌道にそっくりであるということが主な理由です。ふたご群の母天体が小惑星パエトンではないかとされました。ただ、この小惑星パエトンがふたご群をどのように形成していったかについてははっきりしていません。今のところ、現在の小惑星としてのパエトンの姿は実は活動を停止した死んだ彗星としての姿であって、かつては回帰するたびに尾をなびかせて流星物質を放出していた彗星であり、その頃に放出された流星物質が今のふたご群を形作っているとされています。
小惑星パエトンの周期は1.6年と非常に短いことや、近日点距離が0.14AUと水星軌道のはるか内側まで入り込むことから、彗星として現在の軌道に投入されて短期間の間に流星物質や揮発性物質を放出し尽くして活動を停止してしまった姿は想像しやすいでしょう。事実、小惑星として発見されながらその後にコマができたり尾ができたりと言った彗星活動が観測された小惑星に107P/4015
ウィルソン−ハリントンや95P/2060 キロンなどがあります。ただし、これまでの考えは流星研究者側からの片思いの感があります。小惑星研究者から見たパエトンはスペクトルやアルベド(反射能)などから見て彗星で観測されるような成分も検出されず、岩石質的で死んだ彗星とは思えないと言う意見が聞かれます。
いずれにせよ、CAT天体(Comet-AsteroidTransision
Object:彗星−小惑星遷移天体)の研究が進めばもう少しはっきりしてくるかもしれません。
このように、小惑星関連群つまり小惑星が母天体であるとされている流星群の形成メカニズムはおおよそ上記のようであるとされています。ただ、小惑星自体が流星群を形成すると言うメカニズムもあながち考えられないわけではありません。
ここで取り上げたふたご群も流星物質の密度がパエトン発見当時1.0g/cm^2、他の流星群が0.6g/cm^2であったのに比べて高いこと(現在はその2倍から数倍の密度とされています)などから、小惑星自体が何らかの原因で破壊されて形成されたと言うシナリオも完全には捨て去れません。ふたご群というわけではありませんが、小惑星帯では小惑星同士や小惑星とその破片との衝突などによって生じる破片は膨大な量で、これらの塵は主に惑星間塵として供給されていきます。流星群を伴う可能性のあるAAA天体(Apollo-Amor-Atem
type Object:アポロ・アモール・アテン型天体)も遠日点は小惑星帯にあってそこを通過するわけですから、それだけ小惑星同士やその破片との衝突にさらされるわけで、それを繰り返すことによって少なくとも母天体である小惑星の周りに衝突でできた破片が取り巻き、やがてそれが軌道進化によって流星群を形成していく可能性もあるかもしれません。また、ちょっと大きな小惑星の表面には塵、砂、砂利またはそれ以上の大きさの堆積物(レゴリス)が積もっています。このような小惑星に小さな破片が高速で衝突すると引力が小さいのでこれらのレゴリスが容易に放出される可能性があります。
このようなことも小惑星からの流星群の形成に結びつかないとは言い切れません。いずれにせよ、小惑星を母天体とする流星群は流星物質としての密度は高くても、流星群としての密度は低そうな感じなので流星群としては小流星群であることが予想されます。既存の小流星群の中には似た軌道を持つ小惑星があるものも多く、それらの関連性や性質を研究することは小惑星だけでなく、それを母天体とする流星群がどのように形成されて行ったかを探ることにもなります。