〜講演会から〜

「事例や体験を通 してカウンセリングを学ぶ」
 臨床心理士 大分県精神保健福祉センター 「大分いのちの電話」
矢頭 道三 さん
1997年3月8日(土)コンパルホール 305室

 まず私の仕事を紹介します。私は「ハートコム大分」に勤めております。これは大分県精神保健福祉センターの愛称です。「ハートコム」の意味は、ハートは心、コムは障害者といいコミュニケーションをするということ、またコミュニティでともに仲よくしようという意味です。県の機関なんですけれども、保健環境部の出先の相談機関で、仕事は主に三つほどやっております。一つは種々の精神障害者の方、あるいはお年寄りの痴呆、アルコール依存症、思春期とかの相談をしています。お医者さんとかいろんな職種の方がいますのであらゆる相談に応じたり診察をしています。二つ目は精神障害者の方々の社会復帰事業ということで、作業や対人関係の訓練を水曜日を除く毎日やっております。もう一つは研修機能ということで、病院関係とか福祉とか教育とか様々な分野の方々に、いろんな形の事例検討会とか、ロールプレイによる研修をしています。  
 その中で私がどういうことをしているかというと、臨床心理士として主に心理療法をします。個人のカウンセリング、ご夫婦の夫婦療法とか家庭療法とかをやっています。いろんな事例がありますけれども、一番多いのが思春期の不登校の相談です。それから成人の方々の対人恐怖の相談もやってます。毎日のように相談を受けてて、昨日も三つの相談を受けました。  
 今日は実際皆さんに簡単な面接を体験していただこうと考えています。あまり難しく考えなくてけっこうです。楽しくやりますから。ちょっと体を動かしてみましょう。今までいろんな立派な先生の講義も聞かれたと思います。それはそれで大変勉強になったかと思います。そういう頭で理解する勉強もとても大切です。しかし我々が頭で考えることとできることというのは違うんですよね。我々の面 接では子育てなどのように経験の中から学んでいくことが大変多いんです。だから体で経験しないことには身につかない。そういうこともありまして、体験的に勉強してみようかなというふうに考えています。これは職場の人間関係とかご家族との関係とか、いろんな人間関係の中でも大変役にたちますので、そういうつもりでやっていただきたいと思います。  面接のパターン   
相手との位置関係  180度、 120度、 90度、 0度、   
相手のどこに視線を置くか?  目を見る  肩を見る  頭の上を見る   
*相手があまり不安を感じないような視線の配り方をすることが大事である   
相手の返事をどう聞くか?
「○○さん、あなたの趣味は何ですか?」「映画鑑賞です。」
 パターン1「ふーん、映画鑑賞ですか。」   
 パターン2 「ふーん、映画鑑賞ですか。いいですね。」   
  *「いいですね」を言うと好意的である   
 パターン3 「ほおーっ」(返事だけ)
 パターン4 (無言、うなずく態度だけ)
 パターン5 「ふーん、映画鑑賞ですか。」(よそ見をして返事する)   
などといろんなパターンがあります。  

ではロールプレイ(役割演技)をしてみます。ロールプレイの留意点 を読んで下さい。  
【相談者(クライエント)の役割】
 相談者になりきって、悩みや不安な気持ちを話していくこと。できれば、今まで相談を受けたなかで、一番苦手なタイプの相談者になりきってみることが参考になるでしょう。援助者(治療者)の受け止め方に、留意すること。援助者のどのような言葉かけ、態度などの時に気持ちが楽になったか、考えさせられたか。あるいは、援助者のどのような言葉かけ、態度などの時に気持ちがイライラしてきたか、相談したくなくなったか。以上のことを頭の中に置きながら、役割を演じてみましょう。  
【援助者(治療者)の役割】
 援助者としての立場で、相談者の悩みを受け止め、相談者がみずから解決していこうという力を最大限に発揮できるように努めること。相談者に対する言葉かけや態度に、最善の配慮をすること。相談者の価値観や生活スタイルを尊重して、援助者の価値観や方法を押しつけないようにすること。相談者が求める流れにそって、相談をすすめていくように心がけていくこと。いつもの自分なりの方法をそのまま演じてみて、自分では気付かない長所や短所を指摘してもらうことも大切です。また、いつもの自分とは、違った方法を演じてみることも大変参考になります。  
【観察者の役割】
  観察者は、援助者と相談者の相談の流れを客観的に観察すること。「相談者は一番何を訴えたいのか。」を把握すること。この相談者は、どのようなタイプの相談者で、どのような方法で受け止めていけばよいのか。また、相談を受けている援助者は、どのような方法で相談者を援助していこうとしているのか。具体的に、この場面 の援助者によるこのような受け止め方(言葉かけ、態度等)は、効果があったのかなかったのかを観察すること。相談者と援助者との関係(対立的、協調的、指導的等)は、どのように感じられるか。以上のことを、留意しながら観察していくこと。  
 それぞれの役割になった時はこういったことに気をつけてやってもらいたいと思います。まず相談者(クライエント)ですね。相談をする立場になった方は、ご自身の問題でも構いませんけれども、あまり深刻な離婚の問題とか、その場で10分くらいで解決できないような問題はやめて下さい。軽いレベルの、この場で話せるようなレベルのご相談をするようにして下さい。またこないだある人から相談を持ちかけられたから、その人になりきってやるとか、仕事上でいろいろ悩みを打ち明けられる人はその役割になってみて下さい。  
 それから援助者になった方は、今日はいかに相手の悩み、つらさを受け止めるか。相手の気持ちになって共感することに努めながら、援助者としての役割をやってみて下さい。  
 それから観察者の役割になられる方は役割演技評価票 をご覧になりながらやってみて下さい。人の面 接を見るということはあまりない。でも最近我々はカウンセリングにおいて、人の面 接の場面を見ると役に立ちます。「自分ならこんなふうにする」「この点はちょっと・・・・だ」  
 相談者設定記録票 をご覧下さい。今日の相談の方法は面談ですね。相談者は本人にするのか? 家族にするのか? 例えば子供さんのことを相談する母親役をするのか? 父親役をするのか? 相談者の年令は大体いくつぐらいか? 相談の内容はこんなことだと、下の方に実際にこんな相談をしてみたいなということをお書き下さい。そしたらもし自分が後で相談者になった時に、これを見ながら演じることができますので、イメージアップを5分間してみて下さい。人間生きてる限り、悩みがあるんですね。私もいっぱいありますね。私も誰かにカウンセリングしてもらいたい。ここで相談者から聞いたことは、皆さん秘密を厳守するという約束をして下さい。  

ロールプレイ  
  ロールプレイはいかがでしたか? 楽しいでしょう? あとが盛り上がりますね。

カウンセリングとは をお読み下さい。特に(カウンセラーに期待されるもの)の10項目は大変重要です。  カウンセリングとは、  Farson, R. E.: 1955 「積極的にきくこと」  「私はあなたという一人の人間に対して、まじめな関心をもっています。あなたは、あなたという一人の人間として、他のだれとも違うあなたの気持ちを持っているのですし、その気持ちは、私にとっても重要なものだと思えるのです。どんなに偉い人が、どんな立派な哲学者や思想家があなたのこの気持ちや感情を否定しようとしたところで、今あなたの気持ちが、その存在を失うわけではない。その気持ちを持っているあなたという人間は厳然として存在するからです。たとえ私があなたの考えに同意しないとしても、あなたが持っているこの考えが、あなたにとって意味深いものだということはよくわかるのです。あなたは、あなたなりに、他の誰にもない大事なものを持っているし、それはあなたの存在によって意味あるものとなるのだと思えるのです。だから私はあなたの存在する仕方のすべてをできるだけ理解したいと思う。私はあなたを変えようとしたり、あなたを評価したりするつもりはない。あなたは傾聴するに値する人だし、私はあなたとの時間を持つことで、私自身もある喜び、あなたという人間と交流しあう喜びをもてるのです。あなたも、もし私と過ごす時間を意味あるものだと思って下さるのなら、とても嬉しいことなのです。」                                 (佐治 守夫流の翻訳)  
Frieda Ffomm - Reichman の言葉  
 「病者に最初に出会う時、相手がその場にいるのを許してくれることを願う。私が相手に何かをしてあげられるなどと言う気持ちを少しでも相手が感じるなら、それは自分の事をわかっていない、傲慢な人だとして拒否されてしまうのが当然なのだ。」  
(カウンセラーに期待されるもの)  
1 クライエントにとって安心できる雰囲気をつくること  
2 傾聴すること  
3 クライエントを尊敬すること  
4 しぐさや視線に気を配ること  
5 ”いま、ここで”の経験を重視すること  
6 潜在力に気付かせること  
7 希望の力を強めること  
8 自己開示の模範としてのカウンセラー  
9 クライエントに柔軟に対応すること  
10 健康なパーソナリティー  
  次に「傾聴の三条件」を紹介します。  
傾聴の三条件(カール・ロジャース)
1、共感的理解  クライエントの内的な世界を、その内側から理解しようと努力しなければならない。  「そこに流れている『実感』をあたかも自分のことのように」・・・・わかろうとする姿勢が大切
2、無条件の肯定的関心  クライエントがどんな内容を語っても、それらに対して無条件の肯定的関心をむける必要がある。  ロジャースの言葉   『あなたは何を言ってもいいし、何をしてもいい、あなたが本当にあなた自身であるならば』
3、自己一致・・・『純粋性』  セラピストは、クライエントとの関係において、率直に自分の実感を見つめ、それを表現することが必要とされている。 セラピスト自身の中に生じる『心の実感』に常に目を向けておく必要がある。  
 これが我々凡人にはなかなかできないことですけれども、特に三番目の自己一致というのが難しいんですね。面 接をしていると援助者の方にいろんな感情が起こってくるんですね。それが聴けないとか、嫌だとか、それをどういう形で自分が自分の気持ちも出せるし、相手を傷つけないで言えるか、このへんが大変難しいんです。これはものすごくトレーニングがいります。相談に来られる方は、年令から能力から、いろんな価値観から考えられないような考えを持っている人が多いですからね。それを無条件にその人の身になって聴くことは大変難しいです。それから共感的になかなかそういう相手の気持ちになることはできるものではない。あたかもその人が感ずるようにとか、思っているように受け止めることは大変難しい。その三つが大事です。  
 次の「カウンセリングの過程」は電話カウンセリングの中からとったんですけれども、カウンセリングのプロセスとしてこういう段階があるということで紹介します。
カウンセリングの過程
1、傾聴の段階  ただひたすらに、相手の言う事をしっかり聞いていくこと。「ハイ、エーエー、なるほど、それで、そのことをもうすこしお話ください。」
2、反射の段階  内容の反射   相手の話を暫く聞いたうえでこちら側の言葉で要約して確認すること。   「あなたのおっしゃっている事は、・・・・・・ですね。」  感情の反射   相手の感情を受け止めること。相手が感じているそのままを感じ取ること。   「・・・・と感じるんですね。・・・・と思うんですね。」
3、探索の段階  相手に自分自身の問題や関心をみつめさせること。「あなたとしては、主な問題は何だと思いますか。あれこれと慎重に考えていらっしゃるんでしょう。」
4、対決の段階  こちら側(治療者)の考えや違った視点を、相手が気付くように、それとなく気付かせていくこと。「私には、・・・・のように思いますが。・・・・について考えたことがありますか。」
5、決断の段階  相手に自ら自分自身の問題に対して、洞察を深め、適切な行動を起こすように、自らが決めていくこと。 「どうしたいと思いますか。そのことでどうしたらいいと思いますか。これらの案のうち、あなたはどら がいいと思いますか。これからどうしますか。どんな援助がいりますか。」
−「電話カウンセリング」ゴードン・C・ハンブリー著より−
  今日はたぶん傾聴ぐらいのところまでです。カウンセリングは段階がありまして、最終的に「決断の段階」のところまでもっていきますが、素人の方は傾聴だけをやると、それだけでも相手は非常に癒される、そういうことだけでも人間関係がうまくいくと思っています。
質疑応答
Q 自分のつらいことをしゃべって下さる人ですと、「この人のために何かしてあげなきゃならない」という気持ちが沸いてくるんですけれども、そういった時に私には理解できないような重い悩みを訴える方がいらっしゃって、そういう時に私がわからない場合でも安易にわかったふりをする。それに自分としては迷いがあって「私はあなたのことわかるわ」という態度を示してあげたいんだけれども、自分はわかってない。そんな時にはどうしたらいいですか?
A 難しい質問ですが、相手のつらい状況をどういった形で理解するか? ということの一つのポイントがありますね。それから共感できない時にどういうふうに返すかわからないのにわかったふりをするというのは良くないことです。まずわかるためにはどうしたらいいかという話をしたいと思います。わかるためには具体的に詳しく聴くことですね。どんなふうにつらいか、そのためにどんなふうに苦労してきたのか、根掘り葉掘り詳しく聴く。状況が詳しくわかればわかるほど、こちらとしては共感できる。それが聴けてないからわからない。それから全然理解できないこともあります。そんな時にはきちっと、「私にはそういうことは雲の上のことです」と答えます。解決というところにテクニックがあるんですけれども、わからない場合には率直に「わからないからもう少しお話ししてください」「わからないから、私のわかるようにお話しして下さい」というふうに言葉を返した方がよい。もう聴きたくないということもある。「あなたの問題は大変深刻なので、私には受け止められない」「専門家のところにいったらどうですか」とか「私がよくお話しを聴ける状況の時にお話しして下さい」というふうに、受け止められないものを無理して受け止めたらあなたの方が大変です。相談とか悩み事は伝染するんです。だからありのままの気持ちを表現する。不倫とか近親相姦という問題もありますが、「それは法律に違反していると私は思うんですけれどもあなたはどういうふうに考えてますか?」というような提案の方法で相手に考えさせていく場合もあります。
Q 相手の話をしばらく聴いた上でこちらの側の言葉で要約して確認するということなんですけれども「あなたのおっしゃっていることは、こういうことですね?」って言うのはとても怖いかなと思いますけど、それが間違っていると却って不信感に繋がるので「こういうことでしょうか?」という表現の方がいいのではと思います。
A 今までに聴いた話の内容をまとめて、「こうなんですね」と言いますと、それでぴったり合えばもっと話が深まってきます。ちょっと話がずれていると「いやこうなんです」というふうに修正が効く。内容の反復というのはこういうことなんです。繰り返しながら話を深めていくテクニックです。感情の反射、そこまで関われたら言葉の裏にある、つらいとか悲しいとか困っている、心配だとかいう気持ちをこちら側が解してあげる。だから感情表現をされない相談者の場合はこちら側が理解してあげるのが反射の繰り返しとしても大事です。
Q 相談を受けて、自分が苦しむということがありますでしょう? そうした時はどうやったら気持ちが楽になるでしょうか?
A カウンセリングを受けたらよいです。スーパーバイザーを持つことが望ましいし、我々は勉強会を持っています。
Q カウンセリングの目標として、最終的には自分で自分の解決策を見いだしてくれるでしょうか?
A カウンセリングの過程で決断という段階まで大変うまくいくというのは次のような場合です。その方の問題を話します。問題点の確認をします。その人が自分の問題に関して内省していきますね。「そういう問題が起こったのは自分がこんなふうにしてきたからだ、あんなふうにしてきたからだ」というのが起こります。そういうことが出てしまうと、「自分なりにこんなふうなことをしてみようか?」といろんな案が出てくるわけですね。その相談の中で一緒に話し合っていくと「あー、これからこういうふうにやっていきます」とか「こんなふうに考えています」とかいう形で終るのです。
Q 援助者は絶対自分の意見を言ったらいけないんでしょうか?
A いけないんじゃなくて、それは解決の段階で一つの案として、提案という形で出します。相談者が解決に対して一つのことにこだわっていることがあるので、援助者が「こういうことに対してあなたは考えたことがありますか?」と提案するわけですね。クライアントの方と一緒にいろいろ話をして、最終的にはクライアント自身に決断してもらうという形をとります。
Q テレホン身の上相談をよく聴くんですけれども、電話で相談する場合、相手の顔が見えないわけだから、想像しながらするわけですね。どういう要領がいるんでしょうか?
A 私は電話のカウンセリングは苦手ですね。相手が見えないんですね。相手が名前を言わない、年令を言わないこともあるから大変難しい。それからどういう訴えをするのか? 面 接だったら、その人がその問題を話した時に深刻そうに話したら、その問題は深刻なんだろうと察しがつく。電話ではなかなかそれが聴きにくいことがありますね。電話の場合はこういうことを丹念に繰り返しながら相手の話をしっかり聴くというのが一番です。受け止めた内容を言葉で返していってもカウンセリングというところまでいかないことの方がむしろ多い。傾聴とか反射ぐらいで終ることの方が多いですね。それだけでは満足しないで問題解決までもっていくことは電話の場合は難しいので、よく聴くことだけに集中した方がいいんじゃないですか。面 接がうまくいけば早い人は、2〜3回でもよいことがあります。
Q 大分ではこういうケースが多い、とかいう県民性はありますか?
A それはないんじゃないですか。不登校が多いですね。それから対人関係。心身症、例えばドアのノブがきらいだとかいう不安もあります。若い女性の場合は結婚問題が絡むんだと思いますけれども異性との関係、それから40代の女性の方は子育てが終ってこれからどんなふうに生きていくのか? という相談が多い。最近ちょっと増えてきましたのが若い夫婦の関係です。全般 的に人間関係が難しいと考え、悩んでおられます。若い女性が多いのは摂食障害、つまり拒食とか過食が多いですね。これは親との関係で自分は悩んでいる、友人との関係がストレスになる。顔を見たらすごく美人で非のうちどころがなく、すらっとしているのにもっと痩せたいと悩んでいます。男性の場合はアディクション(依存)という問題ですね。アルコール依存が多いんですけれどもギャンブル依存、電話依存とか買い物依存とかがあります。何かに頼らないと生きていけないのかなと思います。それとAC(機能不全の中で育った人たち)も増えています。