ただ過ぎ行く日常



「夜が長い」と父が言い、「一緒に寝て」と母が言います。

私はこの長い月日を共にしてきた二人の
短所的な部分を継いで生きていると思っていたのですが
どうやらそれは浅はかだったようです。
父は、母にそっくりなこの私の顔に慕情を重ねて、
母は、父にそっくりなこの私の性格に安息を覚えて、
別々に過ごす夜の隙間を埋める作業をこなしてゆくわけです。
自分達の弱さを、決してお互いでなく私に委ねているその行為は
悲観的、自虐的なそれではなくて、ただ静かに過ぎていく日常を暮らそうとしている
二人なりの単純な愛情の知恵なのだろうと思います。

私達は他人に聞かれることを嫌います。
それに答える時、まるで大切な誰かを裏切った気分になるからです。
その気分は、夜、明かりを消した時にジワジワと瞼の内側から私を苦しめて
唯一逃避することのできる夢にまで染み出す強さを持っている。
笑わなければ。平常心を保たなければ。幸せそうでいなければ。 目が、覚める。
そして青く青く、夜の黒から生まれた藍色が染める1枚の窓辺を見た時に
私はきっと自分でも見た事のない表情を、浮かべているんでしょう。

穏やかに毎日が過ぎてゆく。
穏やかに毎日が過ぎてゆく。

心が、レモンをかじったように、
溢れては止まらない想いがある。


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