静かな思考の、抱擁のうちで
象はその目を細めた
*
どこかの国の広い草原で
同じ様に目を細める象が
はぐれた子供をさがしていた
*
草原の端にある、ほの暗い森の中で
飢えた兎はそれでも
幸せな夢を見ている
*
森を見下ろす小高い丘で
蒲公英の綿毛は
獣の吐息を受けて丘を飛ぶ
*
その先、かすかに見える山の肌を
小さな石は
祈りながら転がっていく
*
山の泉からほとほとと流れる川で
沢蟹の夫婦は
静かに愛し合うのだろう
*
川の流れ出でた海の、底で
美しいめしいの魚は
掠れた声でささやくのだ
*
汽笛の高らかに響く港では
船の連れた潮風が
石畳の細道を吹いていた
*
そしてどこかの街の
小さな動物園の、錆びた檻の前で
少女は老いた象を見上げるのだった
白象の夢
2006.5.16