銀と深紅



  切り裂いた肌を掻きむしり
  只ひたすらに文字を書き捨てていた
  師が行ってしまう様に
  言えたことなどあるはずはなかったのに

  血液の産まれる海の
  その深底のひとしずくを掬い上げたことは
  救いを求めていたことに似て
  泣くひとのその髪の一房は
  亡くしたひとの愛撫を思い出して震える

  咲き誇るものの全てが花ではないのだから

  ただ涅槃に夢想を梳いて
  透いた水の中では眠れない
  手にしたものの全てを菖蒲にかえて


    喰らいなさい
          
             もうあたりは暗いのでしょう