追想と花火





     
  八月二十七日 午前三時


     ひっそりと聞こえる祭囃子や
     遠くであがった花火に
     いつでも僕らの世界は置き去りだった
     それでも
     窓辺で揺れる風鈴が
     ちいさく鳴くのを、泣くのを
     知っていた


     毎晩眠るたびに
     恐ろしくなったり
     許された気になったり
     彼女に
     明日という日は存在していたのか
     もっと話をしたかった


     戯れに大人の置いていった
     線香花火に
     誰かが云ってしまうかもしれない
     これはこの世界の様だと


     まるでいのちみたい


     もう少しだけ
     線香花火が
     綺麗でなければ良いのにと
     彼女は云っていた


     「生きていたくなる。」



     (そして
      線香花火は
      ぽとりと)


     やがて
     祭囃子がやんで
     誰の花火も消えた
     僕らは
     忘れられてしまうのが
     怖かった
     ひとりで死んでいくのが
     怖かった


     彼女の死んだ日が終わる


     窓辺で揺れる風鈴が
     ちいさく鳴くのを、泣くのを
     知っていた。