夜霧は直ぐに枯れるだらう
寢牀はやがて朽ちるだらう
響きは吹かれた芥のやうに
馨りは流れた笹葉のやうに

篠突く雨に噤むだらう
微かな風に散るだらう
懐郷は深海の砂のやうに
蹉跌は砂漠の木のやうに

階段を上がるぢめんから遠
ざかる落ちたら死ぬ手紙が
届かなくなる天使はゐるだ
らうか烏を飼ふ外套を投げ
るやがて階段は果てる

聲は吐き出さず
思想ははみ出さず
猜疑心は剥ぎ出さず

醜惡さを祈りの言葉に變へる
螺子卷きの音が夜氣に溶ける

けものは歩いていくだらう
さかなは泳いでいくだらう
體は吹かれた芥のやうに
心は流れた笹葉のやうに

過ぎた季節に積もるだらう
老いた手足に殘るだらう
言葉は深海の砂のやうに
記憶は砂漠の木のやうに









無題