デパートの屋上にはパンダがたたずんでいて
灰色の瞳で灰色の空を見ている
100円を入れるとパンダは
空を飛ぼうと動き始めた
う゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーん
パンダは必死に上下する
しばらくの間ながめていた僕は
パンダの飛び去る様を思った
静かに静かに空を飛ぶパンダ
寂しいパンダの行く末を、思った
う゛ーんう゛ーんう゛ーん
「飛んではいけない。飛んではいけない。」
その背にしがみついて諭す
う゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーん
パンダは僕を乗せてなお力強く上下する
パンダは必死だった
う゛ーんう゛ーん
「飛んではいけない。飛んではいけないんだ。」
パンダを抱きしめながら叫ぶ
お前の故郷がここではなくても
それでも
う゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーん
「飛んではいけない。」
う゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーん
パンダは必死だった
今日の空には誰かの放した風船さえ
飛んではいないけれど
う゛ーんう゛ーんう゛ーん
パンダはなおも飛ぼうとした
力強く 力強く
ひとりで見てきた夜空はどんなに広かったことだろう
パンダは僕をのせて力強く上下する
う゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーん
やがてパンダは、静かに止まった
灰色の瞳は、灰色の空を見ていた
しばらくの間抱きしめたままでいた僕は
パンダと同じ空を見た
そして僕は
落ち着かない心持ちのままパンダから離れる
しめった空気の中で
遠く広がるは空を見ている
ビルの屋上には強い風が吹いていた
やがて
見知らぬ男が100円をパンダに投入する
見知らぬ女が恥ずかしそうに笑いながらパンダに乗った
う゛ーんう゛ーんう゛ーんう゛ーん
う゛ーんう゛ーん
僕らは
もしかしたら本当は
空なんて飛べなかったのかも知れない
(飛んでは、いけない)
デパートでは閉店を告げるアナウンスが
マネキン達の間に響いていた
屋上パンダ
2006.5.16