てふてふと勇魚
てふてふが
海を渡つてゐるのを
飢ゑた勇魚が、
ぢつと、見た
食べてはいけないのだよと
言ひ聞かせながら
果てゆく、命
或いは飲み込んでしまへば
腹の中で生き續けるだらうかと
多分に少女趣味な
自己辯護を兼ねた夢想
代として、慰みとして
漂ふ塵のやうな生物を食んだ
痛ひ痛ひと腹を押さへる事も出來ないまヽ
我知らず空のてふてふを探す
いつたい
此の廣い空の何處に去つたのか
此の廣い海の何處に散つたのか
勇魚(いさな)……鯨の古称