椅子の上で



    ただ
    僕は死んだのだけれども
    何かを
    残そうと思ったわけではないよ
    ましてや
    野放しの遺言なんて


                                      僕の
                                この小さな痛みは
                                     誰かに
                                  たとえば君に
                                奪われたくはない
                                     これは
                               僕ひとりだけのもの


    君が
    僕を見失ったのは
    実際は
    偏在する世界の偶然じゃ
    ないんだ
    僕は
    逃げ出したんだ


                                      勿論
                             君が嫌いなわけじゃない
                                    けれども
                                   永遠なんて
                               疎ましくはないかい
                                     ひとり
                             ひとりでいることだって
                               僕達には必要だった


    君は
    生きているよ
    僕は
    死んだんだ
    ただ
    それだけだから



                                      何も
                                 急ぐことはない
                                     亡骸の
                                手に、足に通した
                                     細糸を
                              ふりまわす必要なんて
                                   きっとない



    僕の
    唯一赤い心臓まで
    君が
    犯すこともないだろう