春の嵐に桜の散った頃
  赤い蕾は静やかに開く

  鳥も獣も虫も人もみな
  雨を避けて震えている

  赤く匂い立つ蕾は
  濡れそぼった灰色の
  凍えた大気のなかで
  熱い吐息を漏らしている

  その熱い吐息は
  朝靄のうちに溶けゆき
  陽光にまぎれ
  凍えた大気を赤く染めるのだ
  静かに

  そうして
  雨のあがる朝
  闇夜の拡散する頃に
  他の蕾たちはその身を開きはじめる

  赤い花弁は
  そっと
  散るのだった


赤い蕾




































                                          2006.5.16