月澱





     私がまだあなたの中にいた頃
     あなたは恋をしていましたね
     彼に会うたびに可愛くはやまるあなたの鼓動は
     とても心地の良いものでした

     歌うことが好きでしたね
     流行り歌さえ知らないあなたでしたが
     嬉しそうに楽しそうにラジオにあわせる声は
     私の幸せでした

     さみしくなると
     あなたは私に本を読みましたね
     私は何もできなかったけれど
     いつもあなたを愛していました

     だから最期の瞬間も
     あなたが泣いてしまうことが
     私はなにより哀しかったのです
     そとはまだ冬で、少しさむかったことを覚えています

     どれ程の言葉を
     あなたはかけてくれたことでしょう
     どれ程の愛を
     あなたは与えてくれたことでしょう
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                                              ※月澱……堕胎薬