プリニウスの博物誌①



約二千年前のローマ時代、人類初の百科辞典が誕生します
その名も「博物誌」
天文、地文、気象、地理、人種、発明史、動植物、
農業、造林、金属、絵画、宝石など、
生活に関連するあらゆる分野にわたる二万項目を37巻に纏めたものでした
鉱物は第36巻に、宝石は最終巻である第37巻に著されています

「博物誌」を著したのは、北イタリアの名家に生まれた富豪にして軍人、
プリニウスという人物でした
若くして軍隊に入った彼は、戦いの合間を見つけては多くの文献を紐解き、
多くのものを実際に手にとっては、その特性などを書き留めていったのです
しかし、海軍提督としてポンペイに寄港中にヴェスビオス火山の噴火に遭遇し、
人命救助と火山調査の最中に噴煙に巻かれ、窒息死してしまいます

彼が「博物誌」の中で書いている三百数十種類の鉱物の中には、
それが今、どの宝石の種類に属するのか、
何を指しているのか不明なものも少なくありません
現在のように科学的・鉱物学的な分類が確立していなかったのですから、
同じ鉱物を指して重複しているものもあるのです
現代のように鉱物学的に分類される前は、
そのほとんどが色彩や文様、肌触りなどを基準として分類していたようです

なお、プリニウスは「万物は人間が活用するために存在する」と言っています
つまり神は限りなく人に与えてくださっているという考えから、
万物の事典「博物誌」をまとめたとされているのです
ですが彼は最終章で宝石を語り終えた後、
「あらゆる創造の母なる自然に幸いあれ」と自然の神を讃え、
「ローマ人で自分だけがあなたの顕された事柄を賛嘆できたことを心において下さり、
私に喜びと慈しみを賜らんことを」
と大自然(創造主)に呼びかけて筆を置いています


「博物誌」に記された三百数十種の鉱物の中から、17種を抜粋して紹介します
ここでは5種を、残り12種は「プリニウスの博物誌②」でご紹介します

クリュスタロス(水晶)
・純粋な雪となって空から降ってくる水分からできた氷の一種
・水晶球で太陽の光を集めて灼熱するのは一番効果的な方法

エレクトルム(琥珀)
・リュンクリウム(山猫の小便)とも呼ばれる
・激しい精神錯乱の発作や排尿困難の治療に効果がある
・発熱や病気を癒す ・幼児の護符
・粉末にして蜂蜜と混ぜたものは弱視を治し、細かい粉末に水を入れて
飲むと胃すら治す

アダマス(金剛石)
・鉱山で時に金と結合してできる
・毒を支配し、それを無力にする
・激しい精神錯乱を追い払い、理由のない恐怖心を払い除ける
・シテリティス(鉄石)の別名 ・マグネスの別名
・オリテス(球形で水に冒されない)の別名

スマラグドゥス(緑玉を含む緑色の石)
・別名リモニアティス(牧場石)
・十二種類のスマラグドゥスがあり、スキタイ種(エメラルド)が最良
・目の疲れを癒す ・自然の状態で保存しなければならない
(昔はエメラルドと緑柱石は別のもの考えられていた)

アカウストエ
・火に冒されないので「不(ア)燃(カウストエ)性の石」として知られる
・「インド紅玉」と「ガラマント紅玉」の二種がある
・どの種類の赤玉にも「雄石」「雌石」がある