マルボドゥスの「宝石について」①



中世の代表的な鉱物誌として知られる、マルボドゥスの「宝石について」
しかし、作者はこの本がこれほどに後世の人々に愛読され、
ベストセラーにまでなることなど、全く考えずに執筆していたようです
と言うのも、作者であるマルボドゥスはその序詩にて、
次のように記しているのです

「アラビア王エヴァクスはティベリウス帝に書簡を送ったと伝えられる
これは、首都ローマでアウグストゥスの二代目として支配権を握った皇帝宛てである
(その内容は)様々な種類の石がどんな名前で、
どんな色でどこで産し、またどんな力が備わっているかということを記したのである
私は作品(石)を抜粋してまとめるべきだと思った
短い形にして小冊子にしようと
そしてこれは友人にもあまり知られないようにした
神秘なものを世俗化する人はその卓越性を減らすことになり、
秘密の事柄は、そのままには留まらず、民衆の知るところとなるからである
この作品は三人の友人以外には誰にも見せないようにと決めた
いかなる数が、いかなるものが神聖かを彼らに知らせよう
すなわち神の神秘を守ることに正しく賞賛を送り、
価値ある習慣、誠実な生活という点で推薦される彼らにこそ贈ろう」

つまり、石の持つ神秘性を知るに相応しい3人にだけ見せようと思ったのです
だから一般の人々にこれを読ませる気はありませんでした
しかし、皮肉にもこの作品は人々を魅了したのです
中世後期の十字軍遠征に明け暮れ、新しい時代の息吹を欲する人々に、
聖地のある当方から持ち帰った宝石の神秘は限りないロマンを与え、
時代にフィットしたのだと思われます
人気の一端は彼が宗教界(キリスト教)のエリートだったことが挙げられます
鉱物や宝石の持つ神秘、
つまり神のメッセージを伝えやすい立場にあったといえそうです

彼は1067~81年までフランス北西部にあるアンジューの僧院の学寮長から
レンヌの司教になりました
「宝石について」は1061~96年の間にラテン語で書かれたもので、
60章732行から成り立つ中世では最も古い長詩と言われています
プリニウスの「博物誌」やオルフェウスの「リティカ」などの中からも、
多くを借りているとされています