Cade la sera
夕闇が訪れる



Cade la sera. Nasce
la luna dalla Verna
cruda, roseo nimbo
di tal ch'effonde pace
senza parola dire.
Pace hanno tutti i gioghi.
Si fa piu dolce il lungo
dorso del Pratomagno,
come se blandimento
d'amica man l'induca a sopor lento.
Su i pianori selvosi
ardon le carbonaie,
solenni fuochi in vista.
L'Aruno luce fra i pioppi.
Stormire grande, ad ogni
soffio, vince il corale
ploro de' flauti alati
che la gramigna asconde.
E non s'ode altra voce,
Dai monti l'acqua corre a questa foce.





   夕闇が訪れる。
   荒涼としたヴェルナ山から月が昇り
   バラ色の光は
   言葉もなく
   静けさを降りそそぐ。
   山の頂きは静けさに包まれ
   プラトマーニョ連山の長い背は
   さらに優しさを増す
   まるで愛しい人の手がゆっくりと
   まどろみの中へ誘い込む愛撫のように
   森におおわれた台地では
   炭焼きがまが燃え
   厳かな炎がみえる。
   ポプラの木々の間にアルノ川が煌めく
   風が吹き抜けるたび
   木の葉が激しくざわめき
   ヒメカモジグサ一面を覆っている
   翼のあるフルートの哀愁の調べをかき消す。
   そして 他には 何も聞こえない、
   河口へ向かって山から水が流れるだけだ。


詩: Gabriele d'Annunzio (1863年-1938年)
日本語訳: み〜(無断転載をお断りします)



Ildebrando Pizzetti(1888-1968)は第二次世界大戦の最中(1942〜1943)
「Tre Composizioni Corali」(3つの合唱曲)を作曲しました。
第2曲が聖書の<イザヤ書>、第3曲が同<エレミヤ哀歌>をテキストとしているのに対して、
第1曲は15〜16世紀フランスで流行ったと言われるフランボヤン様式による
G.ダヌンツィオのイタリア語による詩をテキストにしています。
そこには、バラ色の月に照らされ、美しいトスカーナ地方の夕景が…
ヴェルナ山はアッシジの聖フランチェスコが聖痕を受けた荒々しい山、
炭焼き小屋からは煙が立ちのぼり、
アルノ川の両岸ではポプラが風にざわめく・・・
羽の生えたフルートとは、おそらくコオロギのことでしょう。
そして・・・風にざわめくポプラの葉音以外に聞こえるのは
山から河口に向かって流れていく川の水の音だけ・・・
それは、やがてこの美しい風景をも飲み込むことになる世界大戦へと
時代が流れていってしまうことを暗示するかのようです。