<前回までのあらすじ>
前回は別にたいしたことはなかったが、今回の話が掲載されるまでに1ヶ月以上
のブランクがあったのでとりあえず……。
                                               だいさんじ                                                さんずかわ
本編の主人公である高校生・大惨地ひげきは朝っぱらから先輩の三途川わたるの
姉弟ゲンカの愚痴を聞かされながらも、なんとか学校に登校することができたの
だった…!!
…そんだけ。
 

第2話 「ようこそ異空間――マニアック調査倶楽部へ」

 大型の熱帯低気圧が日本列島に近づき、気温もさることながら湿度もかなり高
くなったこの日、教室は蒸し風呂状態だった。1年7組の前から3番目・左から
2番目が、ひげきの席だ。席に着くと、ひげきはさっさと鞄から教科書をとりだ
して机に入れはじめる。そこへ朝のあいさつの声がかかった。
 「おはスタ、ひげき。今日も朝から暑いねぇ」
 「おおぅ…おはスタ、のぼる」
声の主はひげきのクラスメイトの針之山のぼるだった。「これでもかッ!」って
くらいにひどい寝ぐせ頭のひげきに対して、のぼるはサワヤカ系サラサラヘア・
メガネキャラだった。
 「…おいおい、ひげき、やる気なさそーだなぁ。今日はおまえに話があって早め
   に来たってのに」
 「ハナシ? なんだよ、ポ○モンのトレードでもしようってか?」
 「ちがう…!断じて違うって! そういうコトは小学生とやってろ!!」
 「…じゃあなんだよぅ」
ひそかにポケットに潜ませていたゲームボーイの出番がなくなり、ひげきは悲し
そうな表情で机に顔をうずめた。のぼるは、少し間をおいて話を続けた。
 「ひげき、おまえ、百物語って知ってるか?」
…百物語。こんな言葉がこんなかたちで高校生の会話に登場するのは、あまりに
唐突だった。ひげきは5秒ほど固まったのち、やっとリアクションを見せた。
ちょっと(5cmくらい)引きながら、彼は言った。
 「…ちょっとキミ、唐突だぞ」
 「ホームルームが始まるまで時間がないからな。…で、どうだ、知ってるのか?」
 「…知ってるよ。みんなで集まって恐い話しまくる、アレだろ?それがどうかし
   たのか?」
                     わ け
 「ちょっと理由ありでさ、マニアック調査倶楽部の部員のおまえに相談があるんだ。
   …実は今度、うちのゲーマー部と水泳部とで『合同・百物語合宿』を行なうこと
   になってさ…そのことでな……」
 「ご…合同…百物語合宿ぅ?!」
のぼるが発した意外な言葉に、ひげきはすっとんきょうな声を上げた。



 「もうすぐ部室だ…、マニアック調査倶楽部の」
放課後。傾きはじめた日の光が射し込む廊下を、ひげきとのぼるは歩いている。
 「まさか、のぼるをあそこへ連れて行くことになるなんてな…」
ひとりごとのようにつぶやく、ひげき。
 「マニアック調査倶楽部――。
  この不吉川高校の学園内、およびその周辺で起こる怪奇な事件や現象を調査する
  部……。あやしいよな。部の名前も内容も、部員のおまえも」
のぼるも、ひとりごとのようにつぶやく。そのとなりでひげきが切レた。
 「わるかったな、マニアックな部活やっててよ…!!」
ゲーマー部所属ののぼるも十二分にマニアックかつあやしいと想うひげきであった。
 「着いたぞ」
2人の足が止まった。
 「…ここか……。ここが…マニアの巣窟……いや、調査倶楽部の部室…」
各文化部の部室が連なる校舎の一角…。その一番奥にそれはあった。ドアに取りつ
けてあるプレートに"マニアック調査倶楽部"と書かれている。"マニアック調査倶楽"
までがマジックペンで書かれていて、"部"だけが活字で印刷されている。
…たしかにここが、『マニアック調査倶楽  部』の部室なのだ。
のぼるのノドがゴクッと鳴った。その様子を横目で見やってひげきが言う。
 「朝の話、『部長』に頼めばいいんだな?」
 「…ああ、たのむ」
ひげきは部室のドアノブに手をかけた。
 (部長…いるかな?)
ガチャ…という効果音とともにドアが開いた。そして、2人は固まった。彼らの視線
は、部屋のど真ん中に横たわる「何か」に釘付けになっていた。全長5cmほどの妙
に腹部が膨れたヘビ……、それはまさに――。
 「つッ…! ツチノコ――――ッ!?!?」
ひげきとのぼるは、声を限りにして絶叫した。異形の生物を目の当たりにして――…。



 2人の絶叫がまだ彼ら自身の鼓膜内で反響している。その絶叫の元凶であるツチノコ
はというと…。
 「これ、どう見てもニセ物だよな」
おそるおそる問題の物体に近づき、白々しい目で見下ろしながらのぼるが言った。
			                     ・  ・  ・ 
 「ああ…。コリャ、つくりものだ。あの人、またこんなもの作ってからに…」
ひげきは、なにやらブツブツ言いながら偽ツチノコを近くの机の上に置いた。
もし実在するとしたら岡山県の山中に生息しているはずのツチノコが何故ここに…?!
と、ビビリ上がっていたのぼるも、ニセモノだをわかり、ようやく平静を取り戻した。
―そのとき、
 「ウッフフフ、おどろいたかしら?」
突如、ひげきたちの頭上から声が…。はじかれたようにその方向を見るひげきとのぼる。
2人の視界にまたしても異形の物が映り込んだ!
なんと、1m以上もあろうかというヤモリが天井に張りついているのだ!! いや、よく
見るとそれは着ぐるみだった。ヤモリの着ぐるみを装着した女性が、天井に四つん這い
で張りついているのだ。女性だと判断できたのは、ヤモリの口の部分から眼鏡をかけた
女性の顔がのぞいていたからだ。
 「――――――――ッ!!?」
のぼるは声にならない声を上げ、卒倒寸前のところで踏みとどまった。対して、ひげき
は彼女の正体を知っているらしく、
             さいがわら
 「さ…賽河原…せんぱい……」
と、引きつった声でその名を呼んだ。それとほぼ同時に、彼女は「シュタッ」と、自分
の口で効果音を言いながら床に着地した。
 「…なにやってるんですか。また、爬虫類ごっこですか?」
あきれた顔で、ひげきが問う。
 「ええ、いかにも。それにしても、ひげき君が部室にお友達つれてくるなんて、めずら
   しいわね」
着ぐるみのファスナーを下ろしながら、彼女は言った。
 「この人は、賽河原あゆみ子さん。2年生。マニアック調査倶楽部の副部長をつとめる
   人だ」
ひげきが簡単に紹介した。その間に、彼女は慣れた手つきでヤモリスーツを脱ぎ終えた。
そしてエレガントなしぐさで髪を整える。端正な顔立ちだ。
 「イモリもええけど、ヤモリもええどす」
つややかな唇から、不可解な言葉がとびだした。しかも、なぜか京都弁で…。
 「…爬虫類マニアなんだ」
賽河原あゆみ子という日常を逸脱した人物を前に、もはや放心状態ののぼるにひげきが説
明した。
 「…いや、爬虫類にとどまらず、あらゆる生物の知識に精通している多識な人さ。それ
   こそ、古代生物からUMA(未確認生物)に至るまで…」
 「そ…そうなの」
たしかに知的な印象を受けると、のぼるは思った。…が、怪しく光る眼鏡の奥から伝わっ
てくる、なにか常軌を逸したオーラのようなものが、そのイメージをはるかに凌駕してい
るのも事実だった。
 (…あやしい)
決して声には出せないその言葉が、のぼるの脳裏にこだました。
 「あの、賽河原せんぱい。部長は…」
ひげきが部室を見回しながら、あゆみ子にきいた。
 「そこにいるわよ」
 「え?」
ひげきは予想外の返答に狼狽した。あゆみ子が指差す方向には、机の上にのった16イン
チのテレビがあるだけ。いや、厳密に言えばVHSのビデオデッキもあるが…。
 「…まさか、あの人……。また、『中』に…」
そうつぶやくと、ひげきはテレビとビデオデッキの電源スイッチをONにして再生ボタン
を押した。テレビのと画面に映像が映る。それは、どこかで観た映像だった。
 「…井戸?」
のぼるは、かなり嫌な予感がした。
…ビデオ。
…井戸。
ある映画のワンシーンの記憶が、彼の頭のなかでよみがえる。
テレビのスピーカーから流れる、ギィィィ…という音がより一層、彼の予感を強く揺さぶ
った。しかし、「そんなまさか…」とか「さすがにアレは…」と、自分に言い聞かせる。
 「おい、ひげき…。『中』…って……?」
そうのぼるが言いかけたとき、テレビの中の井戸から人が這い出してきた。この学校の制
服を着たひとりの男…。そろそろ散髪する必要がありそうなくらいに伸びた髪の間から、
血色の悪い顔がみえる。その男は井戸を出て、だんだんと画面手前へと近づいてくる。
 「部長のおでましね」
あゆみ子がクスッと笑って言った。
 「おでましって、まさかテレビの中から…?『リング』じゃあるまいし、ハハハ…。これ
よくできてますね。合成ですか? まったく、ほんとにマニアックな部活なんだから」
部員たちの趣味の悪い冗談を一笑に付したのぼるは、次の瞬間、信じられない光景を見た。
 「どうも、部長の三途川です」
テレビ画面から男の顔が「にゅっ」と飛び出し、のぼるに向かって自己紹介したのだ…!
 「……!」
時間が止まった。
あまりに非現実的な事態との直面に、思考回路の停止を起こした針之山のぼるには、そう
感じられた。
止まった時のなかで、彼は思った。ここは、異空間だ。世の中には開けてはならない扉が
存在する。この部室もまた、その一つなのだ、と。

 平成12年 7月12日。
 日本時間・午後4時23分42秒、『ザ・ワールド21』の発動を観測――。

										つづけ!

――次回予告!
  ゲーマー部と水泳部の『合同・百物語合宿』に参加することになった、ひげきたちマニ
  アック調査倶楽部。100人の高校生たちによって、深夜2時――まさに草木も眠る
  丑三つ刻に開始される百物語…。百本目のろうそくが消されたとき、それは起こった…!

	次回・不吉川高校マニアック調査倶楽部 FILE.1
	    第3話「餅は餅屋! マニアック調査倶楽部 出動!!」

									そのうち書きます…
 
御伽の間へダイブ…