リ ニ ア の 日 記
最終章 また逢える日まで

Renear's Diary


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 時は流れる。音をたてずに、ただ刻々と。

 赤珠の王女ミーシア=サハリンことリニアは魔導学院と呼ばれる場所にいた。

 そこは魔導同盟に連なる戦士を育成するという名目で作られた施設である。今はまだ正式な運営はされていないが、学院に試験的に置かれた二つの教室はどちらとも同盟内外において高い評価を受けていた。

 リニアはその教室の一つ、バーグ教室の生徒としてその中にいたのだ。

 大人になったリニアは待っていた。そこでたった一人の男を。

 その男は他の大陸で起こった戦争に参加し、終戦の後、忽然と姿を消してしまったのである。そして彼からの音沙汰はなく、彼女は十七という歳を迎えていた。

「ミーシア、悪いが少し私に付き合ってもらえるかね」

 そんなある日、彼女は師であるガルシア=バーグからそう言われ、彼の後任となる新しい教師と会うことになっていた。ガルシアは病を患っており、自身の命が短いことを知っていたのである。

 ガルシアの後任になるというのは、彼の教えを受けた弟子だということだった。いわばリニア達の兄弟子にあたることになるその青年をリニアに会わせるのには、ガルシアなりの意図があった。

「彼は私の全てを教えた唯一人の男だ。能力面において彼よりも優れた教え子がいなかったわけではないが、私の技を完全に吸収したのは彼唯一人だった」

 そう言うガルシアの表情は、酷く嬉しげなものだった。彼自身、その男と会うのは久しぶりなのだという。彼は肉親であるリニアに彼を会わせておきたかったのだ。

「嬉しいのは解りますが、興奮しすぎて身体に負担を掛けないで下さいね、御祖父様」

 子供のように高揚している師に、リニアは苦笑しながらそんな言葉を掛ける。だがその後、彼女は師よりも激しい高揚を見せることになる。

 そこには彼がいたのだ。

 再会を誓い合った、彼女の半身。

 リニアは数年の時を経て、再び彼との出会いを迎えるのである。


リニアの日記 完


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