レイシャの追憶 零話 最後の想い
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霞がかった意識の中で、レイシャは奇妙な光景を見ていた。 悲痛な表情で顔を歪ませる青年。似たような表情は随分と前に何度か見たことはあったけれど、その時よりも表情は険しく、まさか自分に向けられるとは思っていなかった。 何か可笑しくて、一方で彼を困らせていることに罪悪感のようなものも覚えて、レイシャは小さく苦笑した。 なんて顔をしてるのよ。みっともない。 いつものようにそう軽口を叩こうとしたが、それを言葉にすることはできなかった。 そうか―― そこでレイシャは自身が置かれている状況に気づき、そして彼の苦悶の表情の意味を理解した。 どうしてこうなってしまったのか。その理由もすぐに思い出されたが、そんなことはもうどうでもよかった。それよりも、彼に伝えなければいけない。そう思って、レイシャは何とか唇を動かした。 その言葉は伝わったようで、逆に彼の表情を更に歪めてしまったけれど、それでもレイシャは伝えずにはいられなかった。自分の想いを。 愛しているわ、クリフ―― 本当の名で彼を呼んだのは、これが初めてだった。彼がその名を好んでいないことは知っていたけれど、自分には彼をそう呼ぶ資格があると思いたくて、そして彼の心に自分を残したくて、レイシャはそんな悪戯をしてみせた。 引きずっちゃうかな―― そんな後悔もわずかに浮かんだが、それはすぐに混濁とした意識の中に埋もれていった。 広がっていく白い世界。 その中で、レイシャは自身が幸せだったことを証明するために、精一杯の笑顔を浮かべて見せた。
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