操縦日誌 第七錬成飛行隊
日誌には「操縦日誌」と「反省録」の2冊があり、反省録(比島時代のみ)は軍人としての修養を目的にしたもの。定期的に教官の検閲を受けた。
綱領
航空戦力ノ消長ハ作戦ノ成否ヲ決シ、戦局ノ帰趨ヲ定ム。航空兵ノ本領ハ作戦ノ終始ヲ通ジ、偉大ナル機動力ト独特ノ戦闘威力トヲ最高度ニ発揮シ制空権ヲ獲得シテ、全軍戦捷ノ根基ヲ確立スルニ在リ
航空兵ハ剛膽ニシテ周到、慧敏ニシテ沈着機ニ臨ミ、克ク果敢断行シ、強靱不屈、其ノ本領ヲ完ウスベシ
戦闘隊ノ任務
戦闘隊ハ他分科飛行部隊ト協同シ、又ハ独力ヲ以テ、主トシテ敵機撃滅ニ任ズルモノトス
戦闘隊ノ本旨
敵機ヲ撃滅スル為、戦闘隊ハ凡主積極的ニ進攻シ、敵ヲ空中ニ於テ捕捉撃滅スルヲ本旨トス。状況ニ拠リ対地攻撃ヲ敢行シ、在地敵機ヲ撃滅スルコトニアリ
空中戦闘要訣
空中戦闘ノ要訣ハ先制奇襲ニアリ。故ニ各級指揮官以下、常ニ索敵警戒ヲ至厳ニシ、吾ガ予期ヲ以テ敵ノ不期ヲ衝キ、高位ヲ必占シテ勝ヲ一挙ニ利スルヲ要ス
反省録より 昭和19年8月10日(木) 田原飛行団長初度巡視
8月17日 第1日
課目 九七戦ニ依ル離着陸(主力)
主演項目
1.飛行感覚恢復
2.飛行地区ノ確認
注意
1.過失ノ原因ヲ究明シ、何故斯ナリシヤヲ考ヘ欠点ヲ直シ、二度トソノ過失ヲ繰返スナ
2.飛行軍紀ヲ確立セヨ。軍人トシテ恥ズベキナリ
3.其ノ曰ク演練事項ハ何ナリヤ克ク考ヘ、其ノ曰く演練スベキ事項ヲ確実ニ掴ムべシ。為シテ効果アラシメヨ
演習終了後ノ教官注意、前記ニ同ジ
反省録より 飛行演習開始。飛行時間ハ短シ地上時間ハ長シ。良ク銘肝セヨ。一回ノ飛行ヲ無駄ニスベカラズ
8月18日 第2日
課目 離着陸
主演練項目 着陸進入(制限地)
注意
1.軸線方向ノ確立
2.ピストヨリニ接地セザル事
3.引掛ケラレタル場合ノ処置(注) 反対方向舵ヲ一杯踏ミ、操縦桿ヲ後方ニ引キ「レバー」ヲ決ズ全閉トスベシ
4.不時着ノ処置
5.漠然ト搭乗スベカラズ
注=「引掛ケラケ」は尾輪式飛行機特有の方向不安定性。グラウンドループともいう。
教官注意
1.物事ヲ確認シテ実施スベキ習性不足
2.操縦ヲ性格化(ママ)セヨ
3.風ニ流サレタル時ノ処置
制限地要領
第4旋回高度100〜150 V160(注= 速度)。終了V150〜140。回転数1000。静カニ軸線ヲ合シ降下。実施10分
飛行場確認シ得、風ニ流サレ前方機ヲ確認シツツモ、内側ニ着陸ス。不可ナリ
8月19日 第3日
課目 落下タンク(水満載)ニ依ル離着陸
徳目 冷静
主演項目 着陸進入降下要領
注意 失速
教官注意事項
1.落下着陸、バンド(注=バウンド)ハ共ニ不可。飽ク迄三点ニテ着陸
2.場周ノ補助目標ヲ掴メ
3.滑走地区ヲ確認シ場外ニ着陸セザルコトハ軍紀ナリ
4.風ニ流サレルナ。其ノ為第四旋回ノ為スベキ事項。風大ナル時、目測高ク「レバー」全閉トスベカラズ。目測低ク「レバー」ヲ若干残シ降下スベシ。「レバー」全閉トセバ風ニ流サレル度大ナリ
5.落下タンク装着セル場合ノ重キ感覚ヲ感得スベシ。三式戦ハ更ニ重キ事ヲ銘肝スベシ
8月19日(土)の反省録より 目下雨期ナリ。飛行演習モ順調ニ進マズ
8月20日(日) 防空壕(個人壕=蛸壺壕)ヲ掘ル
8月21日 第4日
課目 九七戦落下タンク装着ニ依ル離着陸
徳目 冷静
主演項目 場周飛行諸元、特ニ第4旋回以後ノ動作
注意
1.計器点検
2.着陸地帯内確認
3.場周経路ノ判定。地点ニ依ル場合ト自分ノ機ト飛行場トノ関係
教官注意
1.着陸ニ絶対ニ引キ上ゲザルコト
2.到風ノ場合、接地後ノ方向保持
3.接地操作ニ於ケル沈ミヲ判断シ判定スベシ
8月24日 第5日
課目 九七戦ニ依ル離着陸
注意其ノ他前日ニ仝ジ
8月25日 第6日
課目 三式戦地上滑走
徳目 確実
主演練項目
1.席房内慣熟
2.諸操作処置ノ慣熟
注意 警戒(対地、対空)
課目 九七戦離着陸
徳目 沈着
主演練項目
1.場周旋回地点ノ把握
2.軸線進入要訣
注意
1.第3旋回地点、近クナラザルコト
2.第4旋回ハ高度過高トナラザルコト
3.落下着陸
4.沈着冷静ナル操作
5.三式戦ノ諸計器慣熟スルコト
反省録より 「益良男の 血もて堅めし千歳岩 あたりて砕け仇し外波」
8月26日 第7日
課目 三式戦地上滑走、九七戦離着陸
其ノ他前日ニ仝ジ
雲ノタメ第1旋回高度100米、場周高度200米
注意 滑走路ノ軸線上ニ着陸スベシ