読売新聞 昭和20年5月24日 木曜日
想ひ見よ故障機ゆえの苦衷 両隊長断腸の「申送り」 出撃遅れた部下荒鷲へ
【前線基地にて宮本報道班員発】 07.3.10


(前略)
 第○○振武と第○○振武の池田、黒木両隊長は、さういふ集結、出撃のひと足遅れた部下のためにつぎのやうな連名の「申送り」をのこしてこの基地から突っ込んでいった。

 命により皆より一先に北澤、伊藤、中島につゞき沖縄の敵へ玉と砕ける。隊員全員同時に突入し得なかったことは真に皆とゝもに残念だ。しかしこれが戦闘の実情である。我々は命のままに隊員全員をお互いに信じ、仇艦を必沈すべきであると思ふ。俺たちも第一次の出撃で一度離陸しながら、北澤、伊藤、中島の三人を先に突っ込まさしたやうなことになって、隊長として申しわけなく、心苦しい次第である。

 たしかに後に残るものほど辛い、御苦労である。隊長は隊員とはなれた他の振武隊をみると、皆のことが思はれるが、どうか或は唯一人になって残らうともあくまで気を大きくもち最後まで粘って明るく、元気に第○○、第○○両振武の特色を発揮して奮闘して貰いたい。俺たちも一足さきに征った北澤、伊藤、中島に追ひついて皆のくるのを心して待っている。

 そまつな用紙に鉛筆の走り書き、しかも言々句々はらわたにしみとほった。第○○振武の佐伯、三根、黒川、川崎、南部、小澤らの学鷲少尉が、ちゃうどその隊長の「申送り」をひらいているところへ記者はゆきあはせた。佐伯少尉が読みあげるのをみんな頭をあつめてきいていた。そして「たしかにあとに残るものほど辛い、御苦労である」といふ言葉につづいてあとに残った皆のことが思はれる、といっているところまできたときチラチラ揺れる緑の影にみんなの眼が一様に光ってうるんだのを記者はみた。あとに残った部下にこれほど深い思ひやりを示した言葉を記者は知らない。またあとにのこる特攻隊員の気持ちをこれほど率直に示した言葉も記者は知らない。

 両隊長は「これが戦闘の実情である」といっている。われわれはこの言葉をうっかりきいてしまっては申訳ない。特攻隊員にかういふ言葉をのこさせる眼前の実情に、記者はその場をはづしてみんなの眼のとゞかないところへ行きたいと思った。残念ながら実情は故障機が多すぎるのだ。黒川少尉は「十五分ほどとんだら発動機の回転が下り、速度が落ちてしまった。僚機高橋、小坂両伍長に合図して編隊からはなれるときはたゞ涙ばかり流れて・・・と口惜しさうに語った。
 我々は基地に足ぶみするこの特攻隊員の逸る心に瞬時のよどみも感じさせぬやうにしたい。特攻隊員は最後の一人になっても明るく元気に突っ込んでゆく。併しものごとには潮時がある。沖縄決戦もいままさにその潮時であり、もう一刻もぐづぐづしてはいられない

 「おい、俺はお寺参りにいってくるぞ」小澤少尉が池田、黒木両隊長以下さきにいった人達のためにお寺に行くといってたち上ると、三根少尉が「命日を坊さんにいふときな、俺達のも同じ日にしてもらふやうにたのんでおけよ」といった。


5月26日 土曜日
神機到来!勇み立つ学鷲 特攻隊の大河南下 新鋭機、暁の基地を掩ひ尽す
【前線某基地にて宮本報道班員発】

 (一部略)霧が流れる、露が光る、基地の上空の制空戦隊、地上の爆音にもう何も聞こえない。どちらを見ても飛行機ばかりだった。一ヵ所でこんなに大量の飛行機を記者はまだ見たことがない。疾風も飛燕も隼も軍偵もあって、その中に燐として光るのは初めて沖縄戦に雄姿を現はす直掩新鋭戦闘機の見るからに精悍な翼である。

編隊長が朝露を踏んで若い特攻隊員の前に現はれ「心配するナ。今日は俺が立派に前払ひをやってやる。貴様たちばかり死なせはしないぞ」といっている。出撃の時間が刻々迫ってきた。
(中略)
 第三攻撃隊は葛西少尉以下の学鷲たち、第四は陣内軍曹以下の少年飛行隊、第五の飛燕隊佐伯少尉、小澤少尉、鈴木少尉、菊地少尉の四人の胸に吊した白い小箱は、数日前この基地で試験飛行中に散った戦友三根少尉の分骨である。(後略)


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