読売新聞 昭和20年2月17日 日曜日 07.4.1
おゝ火を吐く敵機 奮迅の荒鷲に捧げる地上の感謝 【某制空基地にて森村特派員発】


 高射砲の炸裂音が聞えて来たぞ。降り立ったばかりの空中勤務者も整備員もキッと空を睨んだ。弾幕に追はれるやうにグラマン十数機は真一文字に基地上空に突っ込んでくる。
 「頼むぞ」整備員の祈るやうな聲。あゝ見よわが戦闘機一機、二機、三機、必墜の猛攻はグラマンの上から下から左右からキラキラ?って??の如く襲ひかゝってゆく。

 わが最新鋭機対グラマン。基地西方の上空に文字通り卍巴の息詰る空戦の火蓋が切られた。
 「アッ、火を噴いたグラマン奴!」眼鏡を離した整備将校が叫んだ。火を噴くグラマンは忽ちきり揉みにはいった。つゞいて一機またグラマンだ。
 「ご苦労、ご苦労」と整備員の泣きたいやうな感動の聲。記者とても思ひは同じである。身内に湧きあがる感情におされて危険も忘れ空戦を見守った。

 不敵にもわが基地攻撃を企図した敵の真ッ只中に割って入ったわが制空部隊の奮迅は凄まじく、グラマンは忽ち算を乱した。
 「
少尉、曹長出動」ピストの窓を開いて命令を傳へた。手をあげて答へるやたった今降りたばかりの少尉、曹長はいち早く機上へ…。朝から何回目の出動であらう。誰もかれも三回から四回目の出動である。

 機も人もいよいよ意気軒昂。離陸、空戦、着陸、給油、離陸と戦ひはいよいよ激く展開した。
 
隊の少年航空兵出身伍長は隊長、大尉と共に霞ヶ浦上空で四十機のグラマンを急襲、大尉一機、伍長二機を撃墜。一方隊は千葉県上空で敵を捕捉、隊長自ら敵一機を血祭りにあげ、つゞく准尉は三機、中尉二機、曹長二機、少尉一機をそれぞれ撃墜、戦果は刻々に大きくなってゆく。

 だが戦ひはまだ続いている。「隊長殿出動、
伍長出動」ピストの窓からメガホンが叫んだ。隊長は血刀をふくやうに伍長を僚機に四度び五度びグラマン目がけて飛び立っていった。


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