読売新聞 昭和20年1月28日 日曜日 07.4.1
帝都邀撃戦 必殺の闘魂炸裂
天と時の利に勇躍 逃惑ふB29群猛撃 敵機大半を叩き潰す 【
某基地にて宮本特派員


 大尉を隊長とするこの基地の四機は村山貯水池上空で待機、索敵に當っていた。
 「大月上空に敵発見」最初に敵を見つけたのは長機である。敵の第一目標十五機であった。高度八千くらい、三つの塊に分かれて前は低く後は高い。富士山の方向からまっすぐに帝都をうかがっている。

 またゝく間に彼我の距離が迫った。
の四機の順でいづれも正面から整斉たる第一撃をかけた。敵の三機に黒煙が上った。
 しかしまだ編隊はぴったりかたまって崩れようとしない。こちらは二、三機づゝ各隊と協力、思ひ思ひに追撃、旋回、近接、必殺の第二撃、第三撃を連続指向する。

 戦場は帝都にかゝった。千住の上空と思はれるころ黒煙を噴くB29の背後にぐんぐん追ひすがって行く友軍機一機。かなりの高度差をもって尾部のあたりに急降下で喰ひ下って行ったが、ハッと息を呑む瞬間友軍機が火を噴き、同時に機首がB29の後方背面をかじっていた。
 ふわり頭をあげてのけぞるやうな姿になったB29は、しばらくしてぐっとその頭を下に向け、印旛沼の西方に向けて一挙に高度を下げ突っ込んで行った。

 これと前後して
AH隊の攻撃もいよいよ始り、東京上空で爆弾倉を開いたのち目に見えて戦意を喪ひ崩れ去った敵編隊に対し攻撃を続行、松戸、印旛の上空あたりでその攻撃が爆発点に達した。
 編隊から遅れていた敵一機が螺旋降下をはじめた。左に翼を傾けながら落下して行く。次の一機もエンジンに真赤な火を噴き上げ大体同じ地点にみるみる落ちて行く。この三機は友軍の眼前で殆ど同時に撃墜されたのである。

 十五機の編隊はもはや跡形もなく思ひ思ひの高度をとって東方へ逃げのびる。つゞく敵の第二目標十二、三機もこの上空付近では各隊の攻撃により七機となり、銚子の上空に達したときは僅かに三機となっていた。

 同じ隊の
M大尉は僚機S伍長とともに最後に帝都を襲った十六機の編隊を一機撃墜、一機撃破の戦果をあげた。
 撃墜の一機は銚子の北方の松林の中に火を噴いて墜落、ものゝ見事にこの日の邀撃戦のとゞめを刺した。
 十六機編隊の一番機と左側の中頃にいた一機に対し荻窪の上空で第一撃をかけた。この二機が黒煙を吐くのを見ながら追撃、銚子の上空で遅れはじめた最後の一機に第二撃を浴びせる。するとこのB29は何を思ったか南に旋回、あとから行く
機の方へ機首を向けてきた。
 しめたとこれに左側から近迫、攻撃すると発動機の黒煙はいよいよ激しくなり銚子の上空をぐるっと一回転、高度を下げて陸の方へ突っ込みはじめた。遁走を断念して不時着の用意をはじめたらしい。それに対して四撃、五撃をかける。敵はまったく沈黙、一発も射って来ない。

 銚子の北に銚子若松といふところがある。B29はこの銚子若松と銚子の間ぐらいをぐるぐる廻りながら五千、四千と高度を下げ、みるみる右内側の発動機が火を噴き出した。

 黒煙まじりの紅蓮の煙である。この期におよんで敵機はもう一度気をとり直したのか筑波山をうしろにしたとき沖へ向かって最後の遁走を企てた様子。
 のがすものかとまたこちらが近づいて最後の弾丸を射ちこまんとすると、その眼前でB29はあの大きな翼も胴体も一つの巨大な火の塊となり四百メートルくらいまで墜ちると松明を空間に投げたやうなと恰好でそのまゝ海岸に激突した。

 その付近に民家が二件、海岸には船がかなりつないであった。B29が激突したのはこの民家と船の間の松の防風林で、防風林の中に後半分、砂浜の方に前半分が墜ち、激突した瞬間黒煙は黒煙は濛々と天に沖した。


新聞記事と244戦隊へ戻る