―1―

 テレビからノイズが発せられた。
 それも、
電源の入っていないテレビから。



 メリッサはテレビの側に寄った。
 ノイズと共にモニターがうっすらと発光し、その表面にアルファベットが
浮かび上がる。

 また『組織』からの指令が届いたのだ。
 メリッサは無表情に指令内容を確認した。

 『組織』の協力者の、それも少女が敵対勢力に拉致された。
 『組織』が追跡調査して判明したポイントに向かい少女を救出する。
 そういう指令だった。

 メリッサは気に入らないと思った。

 まず第一に年端もいかない少女がからんでいること。
 それは決して拉致という犯罪行為の被害者であるから、という理由から
だけではない。
 そもそも
自分の『組織』にかかわりがある事自体が気に入らなかった。

 協力者だって?『あの連中』の?

 第二に指令の出し方が気に入らなかった。
 いつもの事だが『組織』の指令の出し方は、盗聴等への対策を考慮
されたものというよりは、狂ったユーモアから考えられたもののように
感じられるからだ。

 やがてモニターの発光がおさまり、ノイズがとだえた。
 メリッサはテレビの電源を入れた。
 指令まではまだ時間がある。

 

 ―2―

 深夜の人通りのない街角。
 メリッサは指定されたポイントで目的の建物を監視していた。
 既に三時間は経つだろうか。
 だがメリッサには一向に疲れは感じられなかった。
 
当然だ。自分はそういう身体なのだから。

 目的の建物のエントランスから一人の男が出てきた。

 トレンチコートをまとい、帽子をかぶった姿は『いかにも』な雰囲気を
かもしだしている。
 そしてその肩にはクーラーボックスを下げていた。
 間違いない。あの男がターゲットだ。

 建物の陰から姿を現し、男に近付いた。
「ハイ」
 いきなり現れた女に声をかけられて男は立ち止まった。
「『彼女』を返してもらいましょうか」
 メリッサの発言は率直すぎるものだった。
「何を言っているのかわからないな」
 男はそう言いつつ懐に手をつっこみ、拳銃を取り出した。そのまま
躊躇せず発砲する。
 メリッサはすばやく横に飛び回避した。
 だがその時、背後から閃光が走った。



 鈍い音と共にメリッサは吹っ飛び、道路に打ちつけられていた。
 ブレーキ音が響き、男の前にボンネットがへこんだ車が止まった。
 男がすばやく後部座席にもぐりこむと、車は発進しこの場から
立ち去った。
 あとには道路に転がっているメリッサだけが残された。

「…張り込んでいたのに…気付かれていたのかしら…」
 メリッサがむくりと起き上がった。
「でもレディを迷わず轢くなんて…。ろくな連中じゃないわね。かえって
迷わず仕事ができそうね」
 メリッサは服こそやや乱れていたが傷ひとつ負っていなかった。
 髪をなでつつ車の立ち去った後を凝視する。



「逃がしはしないわ」
 そうつぶやくとメリッサは追跡を開始した。
 常人を超えたスピードで疾り、跳躍する。
 夜の街を女豹が駆け抜けた。

 やがて目的の車を視界に捉えた。
 メリッサは更にスピードを上げ、跳ぶ。
 鈍い音を立てて、メリッサは車のトランク上にしがみついていた。
 音と振動に車内の人間は振り返った。
 内には運転者とクーラーボックスを持っていた男の二人。二人とも
その顔は驚愕に引きつっていた。
 先刻轢いた女が生きていた事に驚いているのか、それとも突然車に
しがみついてきた事に驚いているのか―。
 男が拳銃をメリッサに発砲した。ウィンドーにヒビが走り、メリッサに
着弾する。
 メリッサはすばやく腕でガードをしていた。服に穴こそ空くが、そこ
からは一滴の血も流れ出す事はなかった。
 男の顔から血の気がなくなっていた。

 この女は何者だ―?
 

 

 後編に続く

 

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