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参/水鏡、曇のち晴れ。
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カーン……カーン……

 村に鐘が鳴り渡る。丁度夕日が沈み始めた頃だ。

「お世話になりました」

 一人の少女が老人と老婆に頭を下げる。

「いいや、構わんよ。それよりあんた、本当に行ってしまうのかい?」

 老人が残念そうな顔をする。

「私らは子供がいないから、あんたのことは孫みたいに思ってたのだけれどねえ……」

 老婆も残念そうだ。一週間、ここで世話になっていた少女は再び旅立つ決心を固めた。

「はい。私も親が既に他界しているため、お二人のことは本当に家族のように接することができました。あなたがたにそう言ってもらえることはとても嬉しいです」

「なら、残ってもいいんだよ?」

 しかし、少女はその決意をはっきりと瞳に宿して二人に告げる。

「本当に、ありがとうございます。でも、立ち止まるくらいならここまで既に歩いてきてはいないんです。私は、逃げたくはない」

 その顔を見て、老人と老婆は渋々ながらも納得したようだ。

「……そうかい。でも辛くなったらいつでも帰ってきていいんだよ?」

「はい! では、行って来ます!」

 少女は道を歩く。その後姿をみた二人は、どちらともなく話し始めた。

「あんな幼い子にあれほどまでの決意の瞳をさせるなんて……」

「よほど辛い道を歩いてきたんだねえ……」

 カーン……カーン……

 村の鐘が、鳴り止んだ。

 少女は黄金色に染まる麦畑を見渡している。綺麗だ。これほどまでに綺麗な場所でこれからの余生を過ごせるのならばなんと幸せな事か。いままで知ることも無かった生き方を体験できるだろうし、あの二人と暮らせば毎日を笑顔で過ごせるだろう。ここで立ち止まれば、どれだけ、苦しまずにすむのか。

「……だけど、選択肢は最初から一つしかないの。私はそれを覚悟したから」

 だから。どれだけ素晴らしい出来事に出会っても、立ち止まれない。

「行きましょうか」

 誰に言ったわけでもなく。自分に言い聞かせて、少女は再び夕焼けに染まる道を歩き出した――




目に見えていたものは、間違いなく現実だ。だからこそココにいる。

無数の死体の上を歩き。
無限の返り血で体と手を染め上げ。
悠久の思いを全て捨てながら歩いてきた。
行き着く先には興味がなく、歩いてきた道を嫌というほど懺悔しながら振り返る。
飲み込まれているのは自分。
飲み込もうとしているのも自分。
なら終わりは、中心は、始まりは、どこ? 


シルコトモナイママ、イツマデモツヅイテユク――



参/水鏡、曇のち晴れ。(完)



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