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はち/宮崎家の休日の場合
〜ご奉仕評価争奪戦・第2ラウンド開始〜
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キッチンスペースはどうやったらこうなるか逆に聞きたいのだが、とにかく壁に至るまで真っ黒だった。妙な煙が換気扇に吸い込まれており、あとで掃除が大変そうだ。おかしいことに異臭は殆どしないのがこれまた不思議である。

「えっと、これです」

「はい?」 

座った雪那の目の前に並ぶのは、真っ黒な塊たち。形はなんとか止めているものの、何故か全て黒い。

「ハンバーグとサラダです」

「どこがだ」

「だって、しょうがないじゃないですか。どうしてもこうなるんだし……」 

指先を突き合わせながらいじける妹。くっ、こんな可愛い妹の頼みとあらば食べるしかないじゃないか! 
意を決した雪那がフォークを取ろうとする。

「あ、兄さん、その」

「うん?」

「私が食べさせます、から。その、ご奉仕、です」 

そう言って、雪華はナイフで器用に真っ黒なハンバーグをき……れなかった。なにやら抑えてるフォークはちゃんと刺さっておらず、動かすたびにゴリゴリと鈍い音がなっている。雪華が相当強い力で切っているのが表情からも伺える。

待っているとようやく一切れ分切れたので、それを持ち上げて――

「あ、あ、ああ、あああああああああーん」

「あ、ああ、あー……ん」 

顔を真っ赤にして黒い塊をこちらに差し出してくる雪華。これで刺している物体が黒くなければ非常にいい光景だが。

雪華の態度もあって可愛いものだ。だが、現実はそんなに甘くなかった。 

ゴリッ!

「グ!?」 

ガリッ!

「ぐぬぬぬぬぬぬ!」 

どれだけ顎に力を入れても1回も噛むことができない。表面から剥がれ落ちた鱗の味からするに、どうやら完全に炭と化したようだ。

それでも調理してくれた妹のためになんとか頑張る、健気な兄だった。 

バキン!

「いふぇええよ」

「ご、御免なさい」 

そのまま噛み切ったが2度目は無理みたいなので、そのまま飲み込んであまりは口から出させてもらった。噛み切れないのでは歯にも悪い。焦った雪華は、次なる資格を繰り出す。

「サラダなら大丈夫のはずです!」

(うん、真っ黒いサラダなんて見たことねえよ) 

文字通りだ。黒いだけ。どんな着色料を使用すればこうなるのか聞きたい。あ、炭か。

「はい! あーんします!」

「あ、あーん」 

リベンジに燃える雪華から再び貰うが。 

ぶにゅり。

(うん、泣きたいなあ) 

ありえない感触。レタスのはずなのに、例えるならゼリーを口に含んだような感触だった。泣きそうになりながらもなんとか飲み込む。

味は――

「炭」

「うううう」 

崩れる雪華。つーか、サラダの味が炭って。用意された水を飲んで何とか口の中をリセットする。

それを終えて今日の夕食はなくなったことを確認すると、再び雪華が立ち上がった。

「最後です、ま、まだデザートが」

「げ」 

テーブルに用意されていないところを見ると冷蔵庫にでも入れているのだろうか。さすがに嫌々待っていると。 

ぽん。 

雪華が座っている雪那に跨って乗っかってきた。

まさか。

「デザートは、わ、私、です……どうぞ……♪」

「ぐっは」 

親近相姦なんざしたくはない。だが雪華はもうやる気満々で、すでに服の紐を外しにかかっている。危険回避のために引き離そうとると、 

ピー!

「終了でーす! 雪華ちゃん離れてくださーい」

「も、もうですか? あと少しだったのに」

「みんな事に及ぶ前に阻止しています。まあこんなもんでしょう」

「うー」

「いや、どいてくれないと俺の精神上よろしくねえ」 

渋々雪華がどけてくれたので、やっと気持ちが軽くなる。

「ふー」 

溜め息をついて、大きく深呼吸した雪那に綺羅々が追い討ちをかける。

「お疲れ様ですが、次で最後です。まだアティちゃんが残ってまーす」

「ええ? アティってどうするんだ?」 

彼女がどうするのか首を傾げてしまう。

「とりあえず居間で一緒にテレビを見てください」

「はあ」 

食卓から居間まで移動する。そこではアティが出迎えてくれた。

「セツナー、一緒にテレビ見ようー?」 

ただし、とんでもない格好で。

「――」 

ぶはっ。 

本当に鼻血が吹き出た。どうにかして手で鼻を押さえるが、鼻血が止まらない。アティの姿は男物の大き目のワイシャツを着て黒いニーソックスを履いていた。

ただし、ワイシャツの下は裸で。薄いので全部見えます。

「はっはっ、月代君、どうよー!」 

自信満々に選んだ綺羅々が胸を張る。当の本人はというと、

これが――  

バタン。 

倒れる。

「あ!」

「兄さん!」

「……あれ? 刺激強すぎた……?」


 勝利者は討論する必要もなかった。一撃KOした時点で全員がアティの勝ちと認めざるを得なくなったのだ。

勝利者であるアティはいまいち状況が飲み込めていなかったようだが、勝利者の景品である

「月代雪那1日自由使用券」を貰ったら舞い上がって喜んでいる。

「ああ、でもアティが勝ってよかったかも」

「瀬里奈さん?」

「他の誰かが勝ったら絶対やりそうだからね……」

「……そうかもしれませんね」 

こうして、最後はまた雪那が関与しないところで全てが決するのだった。あの後、寝込んでどんな夢を見ていたかは知らないが、雪那はうんうんうなされていた。 

そして、次の日。

「セツナー! 1日中遊んでー!」

「はいはい、さあどこ行こうか」 


大量にポケットティッシュを所持した雪那は、1日中アティに付き合って遊ぶことになりました。めで……たい?



はち/宮崎家の休日の場合
〜ご奉仕評価争奪戦・第2ラウンド開始〜
(完)


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