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じゅう/未開拓領域
〜漢の戦い〜
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「趣味。この一言で全てを示そう」

「成程……。まあ判断基準としては悪くはないか。一方的にならんとも言い切れんが」

「フフ、やっぱり君とは相性がいい。もっとも、趣味とはいえ一言でも言い表せる範囲というのがあるけどね」


 おかしい――


 階段を上り終えてから、更に。

「ふうん。それで? よければ教えてくれないもんか」

「それは駄目。君の好みと交換条件ならいいよ?」

「……好み、ね」


 おかしいんだ――


 頭に二人浮かんだ時点で先は見えたようなものだが、それでも雪那は今一度模索する。

(そういや告白された側だから選定しようとも思わなかった。俺の好みねえ……)

 一瞬三人目としてアティが浮かんだものの、即座に抹消してリストから消す。
それだけはあってはならない、近親相姦危険領域突破しかける妹ならまだしも。いやよくねえって、おい。


 この視線には覚えがある――


「ねえ……」

「うわ……大丈夫だよね?」

「ええ? でも彼って転校してきたから……」

「あっ、なら……」

 研ぎ澄まされた身体能力は時として余計な情報を仕入れたがる。雪那の耳に飛び込んでくる発言の数々は本人を不安の底へ叩き落すために充分な威力だった。そう、いつかのクラスメイトの視線とこれは同類。

「龍」

「うん?」

 呼びかけるが足を止めてはいけない。この場合、安全な場所となるのは教室以外ありえないからだ。そして隣に並ぶ龍と会話をしようにも、更に飛び込んできた言葉に絶句せざるを得なくなる。

「……彼……受け?」

「逆……次の……」

 言葉を確実に捉え切れなかったが、それを解せぬほど知識がないわけではない。雪那は気付いていないが表面なら校内でトップを争う二人が仲良く笑い合いながら歩いているのだ、噂の立たない方がおかしい。そしてそれを後押しする最大の理由を、同学年の連中だけは知っている。転校してきた雪那が知らなかったがため、格好のネタに。

「どうしたんだい、雪那君。呼びかけておいて何もなしっていうのは少し感心しないな」

「えあ、すまん。っとな? いやな、その、お前さんの趣味ってのが」

「うん」

「その――」

 同性愛者ですかなんて聞けるか。聞いて仮にOKサイン出されたらどうするんだよ。いや断れ、悩む必要性皆無だって。

「そうだね、趣味として言うなら構わないかな。結局好みのタイプを語ることになっちゃうけど」

「う……」

 嫌だ! 俺は健全でいたいんだ! あ、もしかしてもう踏んだのか。

「実は――」

「げふ」

 龍が口を開き切る前に想像だにしない方向から襟を掴まれた。そのまま雪那は自分の意識が状況把握に追いつく前に教室へと到着する。

随分とふざけた移動方法だが、この手の手段を取って実際に実行してしまえる奴など身内で数えるほどしかいない。

 教室の隅へと追いやられた獲物は目の前に息が掛かるほど接近した女豹に顔面鷲掴みにされて事情聴衆を開始された。

噛み付かれる寸前なのだが相手も気にしてはいない。いや、していられないのだろう。目が泳いで安定していない。

「その、雪那?」

「朝から頑張るな、おい」

「どこまで聞いた? 返答次第によっては、私あんたを拘束しなきゃならないんだけど」

「発想が飛びすぎ。それと顔近すぎ。お前そんなにキスしたいわけ?」

 顔面トマトと化した瀬里奈を冷静に引き剥がし、冷静に振舞ってクラスメイトから言及される前に切り出す。

「助かった、とは言い難いがとりあえず感謝はする。それで、一体どうした。お前は初めて余裕を持って登校した俺様のモゥニングタイムを壊した理由を述べよ、4文字以内で」

「まだだい」

「意味が分からないな。よし、今日の夕食は貴様だけ油たっぷ」



 ――意識が消える前に。最後に見えたのは伸びる黄金の右。

 音すら聞くこと叶わず、雪那は意識を闇の中に落とす――


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