うどん

 「寒い夜には熱いうどんでもすすりたい」と言う訳だが、 里が関西のわが カミさんなどはまず東京のうどんには手が出ない。
うどんには江戸前のあの濃い目の汁が苦手なのだという。たしかに三角の 油揚げと とろろ昆布が載っている大阪の『き〈け〉つねうどん』は 旨いし第一安い。だしが良く効いた汁は薄い色合いである。

 汁うどんと浸けうどんの半ばだろうか「讃岐うどん」、生地は何度もこねて 足で踏みつけ寝かせて・・・こうして丁寧に作られて腰の強い うどん となり、 うどん の味そのものを味わうというものらしい。
茹で上げた麺に濃い汁をかけた「ぶっかけ」はその基本の様で、ともかく 毎日食べないと気が済まないと云う土地の人たちの話を聞いたことがある。
町のとある十字路では四つ角は4軒のうどん屋さんで、それぞれが特色を 出しているのだとか・・・

   見た目は同じようでも 「伊勢うどん」 はもっと太めで少々歯ごたえは柔らかめである。
茹で上げられたばかりの暖かい麺に、やはり濃い目のだし汁と刻みネギ、一味唐辛子などを加えて箸で良くか混ぜると 丼の中は茶色に染まったうどんが出来あがる。

 ある日、お伊勢さん近くの おかげ横丁をぶらりと歩いていたら アトラクション の太鼓の調子が気持ち良く聞こえていた。目前には店先の障子が開け放たれ 風が遠慮なく吹き抜ける うどん屋さん、つい床机に腰を下してしまった。
ちょうど この冬一番の寒気団がやってきた日で 手を切る様に冷たい風に お銚子を一本と暖かい「伊勢うどん」が嬉しかった。

  例年は正月に参るのだけれども、この年は月遅れになってしまったので、 参道や店先がいつもと違った光景に映ったのかも知れない。

 見上げれば空の色、明るい陽射しは確実に春近しを告げていて、何となく そこまで迫った花の季節を思った。

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