てっぱん

 毎朝ウオーキングの後、朝食中に見る朝のテレビ小説 泉州の洋装屋女主人公の「カーネーション」はお気に入り 、ウオーキングも放映時間に遅れぬように調整している。
 朝ドラは「娘と私」以来85本目で今回は伝記もの、全くの創作物よりモデル物は
人気が高いらしく、
記憶をたどれば実在人物をモデルにした作品の方が飽きずに見続けられたように思う。
 かつてモデル物の「おしん」は視聴率50%を超えたと云う、その高人気には及ばないまでも「ゲゲゲの女房」はそれまで下がり続けた朝ドラ人気を復活させた・・・実話の持つ共感がその秘密だろうか?  はたまた妖怪の力だったのだろうか?

 創作物だが ひと昔前に放映の沖縄を舞台に可愛らしい女性が主人公の「ちゅらさん」を思い出す。
その頃 取材目的で単独参加したイタリア・ツアーには同行者に沖縄出身のご夫婦がいた、定年後の記念旅行だったそうで、可愛らしい奥方を「ちゅらさん」と呼ばせて頂いた。
 お話を伺うところ、若い頃のお二人はコーラス活動の中で意気投合され結婚したとか、音楽好きのお二人はミラノのスカラ座は最大の楽しみの目的地、フィレンツェのヴェッキオ橋 ではプッチーニ <ジャンニ・スキッキ> の「わたしのおとうさん」の舞台だと感慨深げだった、お二人の人生がそのオペラの筋書きとも関係あったのかどうかは知らない。
 私も好きなポピュラーな曲だが、いまはWeb.でマリア・カラスの張りのある歌声もすぐに聞くことができる。 こんな具合にテレビ小説の記憶がいつか小さな自分の日常に重なってくるのだ。

 スケッチ取材の話、最近の個展ではテーマを決めて特集してきた、それを目的として取材旅行をして「おくの細道」、「モーツァルトの旅先」をまとめたものだ。
今回も京都の町を舞台にした水のある風景を拾い集めて「京・水景色」にしたい。
 これまでも京都へは数え切れない程訪ねる機会もあり、既に手元には資料など幾らでもあるけれど、 新しいシリーズのためには新たな風景を季節ごとに求めなければならない・・・と、取材を始めた。
 ご案内のように良い季節の京都は人出の季節、街は混み合い一人旅に適当な宿も取りにくい。
 そこで宿泊は大阪と決めた、大阪からは何本ものルートで京都市内の東西南北、目的地へ1時間未満で行ける、場所によっては京都市内泊りよりも かえって便が良い場合さえある

 と決めた最初の取材 初日の大阪泊での夕食時、喰い倒れの町とは言っても土地不案内、ふと目に留まったのがホテル近くの小さな「てっぱん」の看板、暖簾をくぐって店に飛び込 ませたのは朝ドラ「てっぱん」 で見た画面の記憶があったからだ。
 けれどもそこはテレビ・ドラマの様にカワイ子ちゃんの店ではなく オジサン二人の店だった。カウンター奥の鉄板の上で店主は焼きもの中、すでに奥の小あがりでは勤め人 の一団が盛り上が っており、小さなテーブルではサラリーマン二人が帰宅前のひと時を焼酎のウーロン割で一杯やっていた。 
 小生は入口を背に脇カウンターの丸椅子に陣取って、壁の張り紙を見まわして取り敢えず注文する。

 「セット1,000円」、中ジョッキの生ビール、柿の種、突出し風おひたし、おでん、そして目当ての豚玉てっぱんが目の前のカウンターに並んだ。
はじめ店主もお運びのおじさんもブラリと入った闖入客に些か怪訝顔だったけれど、世間話をする間には打ち解けてやがて話も弾み、飲み物の追加などで勘定はセットの数倍になった。
 取材の方は順調で スケッチ取材の京都ブラブラ歩きは毎日15qほどを歩行計は記録し、春夏、秋は二回と季節ごとに既に延べで半月以上は通って… 
作品制作は順調に進んでいる、春の個展をご期待頂きたい。
 

 毎回オジサンてっぱんには顔を出してはいるが、この店へ行くのは味と云うよりは顔馴染みである方に選択優先順位がある。
京都の街中でも おばんざいも良いけれど うどん屋さん、京風お好み焼き屋さん、洋食屋さんなどを見つけて その後の毎回行くリストに入れてある。
 大阪では新世界で串カツ、道頓堀でてっちりなどの下町庶民風の喰い倒れも・・・街の片隅で楽しんできたけれど、このシリーズ取材の残りは、あと冬景色が残っているだけだ。

(2012)

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