新春の樽酒

 新年を迎えたのは、つい昨日のように思えるのに、もう月の半ばを迎えてしまった。
世の中の移り変わりが早いのか、近頃とみに月日の経つのが早いように感じられる。

 いつもは騒々しい東京でも正月は、穏やかな三が日をゆっくりと過ごすことが出来る。
例年このときの東京の空は蒼く、そして全くと言って良いほどに騒音から遠ざかる。
家の縁側に腰をおろして膝に寝転んだ猫の頭でも撫でていると、聞こえるのはスズメの さえずり位のもの、昔なら、さしずめ羽子板で羽根をつく乾いた音か、子供の履く下駄の 音ぐらいはあったかもしれない。
 元旦の朝にはTVで20年前の劇場映画「我輩は猫である」を放映していたっけ。

 2日にはわがホーム・コースの「新年杯」コンペに初めて参加した。初めに記しておくが、 ズラリと並んだ賞品の「銀の扇」の飾り物は、そのどの一つも 我が家の床の間を飾る ことはなかった・・・・。
とも角、昨年までは例年の正月行事と重なって、そのコンペに 出掛けることがなかっただけだ。

 その日は27ホールズの全てがメンバーのみだから随分多くの 顔馴染がいたが、皆一様にのんびりとプレーを楽しんでいるようだった。
そしてクラブハウスの正面には新年の祝いに、デンと樽酒を3樽 積み上げていた。
この辺りの銘酒も名高いと聞いている。用意された一合升を手にとり めいめいに柄杓で「こも」をかぶった樽から汲んだ酒をなみなみと 注いでご機嫌である。
盆に載せられた塩を一つまみ、升の端に乗せて「グイッ」と傾けると、 杉の香りを含んだ冷たい液体は甘味を口に残して腹に収まった。

 さて、帰途の道筋は想像以上に混雑を呈し、往路の倍ほども時間を要しただろうか、都内 全域が混雑状態であったらしい。そう言えば最近は元旦から店を開けるスーパーが多い、 仕事始めを前に故郷から早めの帰京も多かったのかも知れぬ。活気が早めに現れたのだろうか。

(何年か昔のお話)

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