タラ

 近頃「旬」という言葉は日常馴染のないものになりつつあるような気がする。
野菜や果物ならハウス栽培で季節外れと思われる時に立派な商品を提供して くれるし、 これだってバイオ技術の進歩が大いに役立ってのことだろうと思う。
  季節外れの「新そば」「枝豆」はアフリカや、オーストラリアからやってくる そうだし、地球の南北をうまく利用するほど地球も小さくなってしまった所為 があるかもしれない。

 海外旅行に出ると食べる楽しみも多い。小生はいまや世界的料理となった寿司を街中に見つけると店へ入ってみることにしている。
ニューヨークや、ロンドン、パリなどの大都会ならずとも至る所に「寿司店」 はある。 旨い不味いは二の次ではあっても、所換わればまた寿司ネタに差が出る のは致し方ない。
 スイスのジュネーブの店には甘エビがあったので「何処から来るの・・・」 と聞いて みたところ「グリーンランドから日本行きの途中下車ですョ」という。
傷みやすい商品なので現在は水揚げの沖合の船上で瞬間冷凍だとは聞いていたが、 その昔は新潟名物も痛みを案じて東京まで来なかったことを思えばこの変り様 である。

 シベリア高気圧が優勢になり、日本に寒気が押し寄せてくるこれからの季節,北陸地方には「ブリ起し」という風が吹き、氷雨、霰、雷鳴が一日中続く。
この頃から荒海の幸は一段と旨味を増して海辺にはブリが押し寄せるはずだ。
 そして、「タラ」もまた食卓に欠かせぬものとなる。加工された種々のタラの 製品には 普段からお目に掛かる事はあるが、新鮮なタラ一尾は頭のテッペンから 尾の先 まで捨てる所もないそうである。

  永年の料理の工夫が、鍋、焼き物などを育ててきたからだろう。
日本海の荒波 で揉まれ、身を引き締め「旬」のその味はまことに旨かった事を記憶している。

 

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