ヴィーナー シュニッツェル

 ドイツの旅の残りも少なくなったその日は 、朝から気持ちよく晴れて気温もさほど高くなく、 旅の目的のハイライトであるこの地方の木組みの家を訪ね歩くには絶好の日和となった。
 天気も良いのでそれまでよりも1時間ほど早くホテルを発って初めに訪ねた街はHann Munden、二つの小さな川の合流点にちょこんとある小さな街である。
地方道といえども走りやすく道路標識もよく整備されているので町と町が離れて 点在する ようなドイツの地方を訪ねる新参の小生の様な外国人でも難しくは ないのだが、街中では 中世以来の狭い道と一方通行で俄然事情は困難となる。

 日曜日の朝早くと言うこともあってまだパーキングには住人の車以外は停まっていない ようで容易に止める事ができた、こうした街のほとんどでは事前にコインを 入れて時間を 記入したチケットをダッシュボードの上に載せておく方式だが、街によって料金も違い、 また日曜は無料というところもあるらしい、まずは 川縁のパーキングに車を置き街の中心に 向う、折から教会は日曜日の朝の鐘を 高らかに鳴らし街中に響き渡っている。
 
 街の中心、市庁舎前の広場までの街並もまた広場を囲む家々のすべてもが木組みの 美しい姿を朝日にさらして眩しいくらいである。
窓辺に寄りかかり広場を眺め続ける老女が一人いる、見上げて”Good Morning”と言うと ”Guten
Morgen”と3階の窓から声が返ってきた。
この街は意欲的な治療を試みて「鉄ひげ博士」とあだ名された医者がいた町だそうで、 その家も残っていていまやこの町のシンボルのようであった。

 次に尋ねた木組みの家の町はMelsungenと言ってKasselの東南直ぐにある小さな町、 この町は持参した日本の観光案内書にも載っていないので様子が 解らない、 インフォメーションの看板はあるのだが日曜日とて休業のようである。
  木組の街々をこれまでも訪ね歩いてきたが、街によって装飾が微妙に違って いて印象も 違う、どの街も中心は市庁舎と教会がでんと頑張る広場である。
 時刻を告げるように教会の鐘が鳴り、街には老人達の観光集団が幾つか見られ 広場のカフェの椅子も占領している、 どうもヘンな東洋人が二人ブラブラしているといった 按配で我々は見られているのだろうか、なにかとても遠くを旅行している気分になった。

 ちょうど昼時の時分になったので広場の一角のレストランに入る、 黒板に書かれ たのは今日のお薦めといったところ。
 その意味を英語で聞いてみる・・・ドイツ語で返ってくる説明は判ら ない・・・すると、 女主人はやおらカウンターにいる赤ん坊を連れたアジア人 (たぶん 東南 アジア人)に助け を求める、英語で説明してくれと言っているらしい。 連れのドイツ人達(たぶんご主人や友人達だろうが)も寄ってたかって親切にもメニューをあまり良くわからない英語で 説明してくれる・・・、そして自分も大好きでとても美味しいよと 強く勧めてくれた。

 それがシュニッツェルだったらしい、大きな皿に牛肉のカツレツ、トマト風味の ミートソースがかかっている、フライドポテトがどっさりそしてサラダもどっさり、 大きな皿を一生懸命に説明してくれたその場の皆のためにも懸命に平らげたが、 連れは半分くらいも残してしまった、味・・・美味しかった。
  コーヒーを飲んだあと女主人に勘定を聞き、気持ちのチップを加えて支払ったが、この段階ではなんら言葉の問題で滞ることはなかった。
 

 一足遅く着席した隣のテーブルには両手に杖をついた婦人と連れのご主人が 二人静かな 昼食をとっていた。
我々は先ほどのアジア人とその仲間や店の女主人にお礼を言いながら店を出たが、隣の テーブルの老夫婦もみんなと共に我々二人を笑顔で見送ってくれた。

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