山椒魚
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「山椒魚は悲しんだ。」で井伏鱒二先生の処女作は始まる。
両棲類の山椒魚は さんしょううお科と おおさんしょううお科と種類が違うらしいけれも、その持つ印象は何れもが深山幽谷の清冷な水の中に棲むとばかり思っ
ていたが、そうでもない事があるらしい。 |
その例だが、筆者が通っていた私立中学の校舎前に池があって、それはほんの小さな
もので
タテ 3m、ヨコ 1.5mくらい深さは多分子供の膝ほどだったろう。
ふだんは緑色に濁ってドロンとした水面下の睡蓮の葉に隠れて、そんな生き物が棲んで
いるなど
全く考えられない四角の中で。それでもたまに水を入れ換えると、大きな山椒魚
が姿を見せたものだ。
それがどうしてそこにいたかも知らぬ間に中学の3年間はアッと言うまに過ぎ去ったが、
間違いなく
その間は大山椒魚は生き続けていた。子供達のカン声に囲まれていたその池も、
とうの昔に校舎
建替えで姿を消してしまったが、大山椒魚がどうなったのかその後の消息を
筆者は知らない。
奥鬼怒川の平家の落人伝説を看板にする湯西川温泉に行くと山椒魚の黒焼きがある。
貴重なもので、たいへん有効な強壮剤だそうである。宿の仲居さんから夕食時に奨められ
たが、
ご遠慮申し上げた。
翌日、売店でそれにお目に掛ったけれども、トカゲの干物のようなそれは筆者の好みでは
ない。
ただ山椒魚の黒焼きの薬効を発見し、認知した先人の勇気には脱帽のほかあるまい。
ところで小説の主人公はただ穴の中で過ごし、穴から出られぬ大きさにまで育ってしまう
のだが・・・
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