ラムネ

 蝉が鳴いている、夏の日の午後 木陰でついウトウトとしてしまったようだ 。
薄目を開いて明るい空に目をやると、子供の手を広げたようなモミジの若葉が重なり合って、 影を作りその向うの空はとても高い

 蝉しぐれ以外の物音といえば、時折吹いてくる風が小枝をゆすって通り過ぎるサヤサヤ とした音くらいのもの、あぁ、いい気持ちだ!
山並みの緑も先日までの若葉色から少し緑濃くなって落着いた風情、遠くの少し高い山、 三角形の頂の向うには小さな入道雲かなァ・・・
  白い雲

 桜の樹下には吹き抜けで、花ゴザを敷き詰めた小さな茶店 「氷」と染め抜いた小さな幟 は今吹き抜ける風に大きく揺らいでいるが、客も店番もいない店先に氷掻き器はデンと 座ったままである。
  黄色はレモン、赤はイチゴ、緑はメロンとガラスの瓶に3分の1位はあって、真っ赤な顔を して「暑い暑い、喉が渇いた」と店にやって来る客待ち顔だ

 少しのあいだ昼寝をしてしまったせいか喉がやけに渇いた 店先にはブリキを張った桶が あって裏山の泉から樋で引いた水がいつも流れていて、その冷たい水で缶詰やトコロテン、 サイダーやジュース 時にはスイカなんかも浮いている。

 冷たい水に肘まで浸けて水の中から緑色の重たい瓶を掴み上 げる、充分に冷えていることを確かめてから、柱に紐で繋がれブラ下がっている木製の栓開け道具を取り、瓶の口に押し当てる。
 「ブシュ」ッと云う音、 ビー玉が瓶の中で小さな音を立て、少し中身が噴き出した。
 

 瓶は結構考えられていて、圧力で封となっていたビー玉が瓶口に戻らないように突起が
あるので、そこに玉を載せた角度で瓶を口に運ぶ。
少しの香料と砂糖でうす甘い炭酸水は強く口腔を刺激しながら、冷たさが昼寝でボンヤリ した頭を一気にシャッキリさせてくれたようである。

 ノンビリとすごした夏の午後、蝉しぐれが一段と激しくなったのは遠雷が 聞こえたせいだろう か、夕立が来るのか、ヒャッと風が吹き抜けたし、入道雲もぐんと大きく高くなったようだ。

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