水ようかん

 毎日暑い日が続く、昨年は7月に入ってすぐに梅雨が明けて猛暑がことのほか厳しかったので折からの京都取材では汗だくになり、まるで水浴びから上がった様なずぶ濡れシャツのまま電車に乗るのも恥ずかしいくらいだった。
 それに比べてみれば今年は7月半ばの梅雨明け、西日本には豪雨禍が痛ましく、また地球のあちこちから干ばつ、山火事、大雨、水害などの異常気象が数多く聞こえてくる、暑いのは夏だから…などとのんびりできない。

  暑気払いに縁台に腰掛けよく冷えた「水ようかん」でも頂こうか、など、のんびりしてはいけないのかも知れない。
羊羹ならよく練り込んだ老舗のずっしりと重い竹包みも成田名物のそれも味わいがある、しかし避暑ならやはりサッパリ系が気取ら無くて良い。

 庭の井戸水は盛夏の庭水遣りに大変重宝している、戦時中に父親が掘らせたものでその手押しポンプはホースをつないで散水することが出来る優れものだった、防火用にと考えて奮発して設置していたのだと思う。
戦後はホースをつなぐこともなくバケツ散水に使い、そのうちにモーター・ポンプに役割はとってかわられていた。
それでも手押しポンプは残されて時折はガチャガチャと動かされたけれど、二代目になったガッチャン・ポンプはなぜか直ぐに水が抜け落ちてしまい、その結果余計に使うこともなく庭の片隅に数十年も隠れた存在だった。

 井戸の事は「ポンプ屋」さんに頼むものと思い込んでいたせいもある、そして今ではポンプ屋さんさえなくなっているように思い込んでいた。
昨年の東日本大震災を機に井戸も非常用に使えるようにとまずは呼び水用水を井戸端のポリバケツ2個に90Lを用意した、ところが手押しポンプの水落はあまりに激しく実用には心配が残った。

 ある時Web.でポンプについて調べていると動画サイトで井戸部品や故障の原因などを丁寧に解説するのを見つけて、そのアドバイス通りにポンプを分解修理を試みたところ、水落はなくなり「これで…復活!」と大喜びしたものだった。ポンプの原理は簡単なのでちょっとした工具があれば問題なく修復することが出来たのである。
 ところが復活したポンプを喜び勇んで動かしていたある日の事だった、急にレバーに抵抗感が無くなって水を揚げることが出来なくなった…永年の水落を繰り返し大事にしてこなかったためだろうか、ピストン部分の木の腐食が進んで割れてしまったのだった。

 今度は補修部品が必要になり、前回のアドバイスを見たサイトの業者へWeb.で部品を注文した。
分解した本体はさびが目立つ、序での事にラッカー・スプレーを買ってきて塗装もした。注文翌日到着した部品に加えて、他に軸となるボールト・ナットがサービスでついていた。
早速ピストンなどの部品を親切な説明書に従って調整しながら組立てると、手押しポンプは新しい部品を光らせて見違えるような新品同様に衣替えしていた。
 最後に呼び水をポンプに差して数回レバーを上下させると・・・ゴボ、ゴボッと思いもよらぬ程の多い水量を蛇口から吐き出した。

 想定以上の完全復活には全くビックリ、そして感激的でもあった…軽くレバーを動かせば大量に冷たい水を吐き出す蛇口、もちろんポンプから水が落ちる心配は無く…それ以降は電動ポンプのお役が少し減ったようだ。
尤もまだ今夏は毎夕スプリンクラーを動かして芝生を潤す程にはなっていない、残りの暑気もお手柔らかく・・・と願いたいが、まずはわが庭には手押し、電動ポンプ揃って健在となった。
停電になっても備えは出来ている、そのようなことがないのが願いだけれど、緊急となっても隣近所分くらいの用水はまかなってくれると思う。

 さァて・・・縁に腰かけて羊羹に冷やしたお茶でおやつにしましょうか。

(2012)

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