パンくず

 近ごろ公園のバード事情はドバトに餌を与えるのを控えることが定着し、広場を埋め尽くしたドバトたちが一斉に飛び立って上空を舞う光景が珍しくなった、売店でもハトの餌を売らなくなったことも大きい原因だろう。
餌をついばむ光景を眺める幼子や家族の風景など麗しいが、鳥の媒介する病気を考えると仕方がないだろう。
この公園でも以前はドバトを追い狩りをするカラスの姿さえ見た記憶もあるが、最近ではドバトの群れが無くなりカラスの鳴き声さえ小さくなったように思える。

   この場所では1964年東京オリンピックが開かれ、会期後は公園として残された都民の憩いの場である。
中心の広場に立つ指令塔の下には池が造られ、サッカー会場になった陸上競技場や、バレーボール会場だった体育館が当時と同じように広場を取り囲んでいる。
指令塔脇の聖火台にはオリンピックの会期中 聖火が燃え盛っていた夜景の美しさを今でも思い出す。
 すでに半世紀近く経過して当時は郊外の風情が残っていたこの辺りも、都心と言う事になってきたようだが・・・

 小生のウオーキングコースは公園の周回路を決ったいくつかのパターンで歩くのだが、迂闊にも最近気づいたのは指令塔下の池を根城にするカルガモ一族の存在である。その池には萱かススキのような植込みのある島があり、浅く四角い水中には亀もいるけれど、魚はいない澄んだ水が満ちたコンクリートで囲まれた池である。
島に掲げられた看板には「水に入らないでください」とか「餌をやらないでください」とか書いてあるけれど、池は上下二段になっていて誰が掛けたのだろうか登降用の木製階段や、上の池の壱b近くもありそうな島への登降用にやはり梯子が、それはどうやら金属製の確りしたものが掛けられてある。

 その様な通路がなければとても上り下りすることは出来そうもない島だが、植え込みに住居を構えているカルガモ達を数えてみると大小合わせて19羽のようだ。池の周りでご常連の年寄りの話を聞くと春先の子供たちは皆居なくなってしまったとの事だけれど、いまは遊弋する一番幼そうな1羽に母親カモが寄り添い小さな声で何事か『クワッ、クワッ』と云い聞かせているようだ。
同じように小さく幼いカモがずっと離れて1羽泳いでいるが兄弟なのかは解らない・・・

 しかし前述のように池に住む魚はおろか水草さえないところの餌は何かを考えてみるに、人様から貰う餌以外は無かろう。そのような疑いを持っていたある朝のこと池の手前の低い階段にパンくずを撒く人がいた、いつものことがちゃんと判っているらしく一族総出場で近くに寄ってきて争いもない水の上の静かな食事をしている、そしてそれを見つけたドバトが数羽やって来て階段に散った餌を忙しなくお相伴させて頂くのも日課なのだろう カルガモ、ドバトが入り混じる食事風景となった。
カルガモたちは小さな四角い池の中を大中小と単独であるいは群れて動き回っているが、池の周りを散歩中の犬たちや公園に住いする猫たちからは安全なサンクチュアリなのかもしれない。
 

 朝のウオーキングでは決まった時間に決まった場所ですれ違う人や、決まって出逢うワンちゃん等と朝のあいさつを交わしながら雨の降らぬ限り10年以上続けている。
近ごろ朝の顔ぶれにはお勤めの卒業生やカップルはもちろんだけれど、若い女性のジョギングも・・・ファッションに気を配りながら多くなってきた。
小生の夏はTシャツに短パン、スニーカーでキャップをかぶり大股、決まったペースで一気に約4〜5q歩き、帰宅後門前でラジオ体操とストレッチなのだが…最近は途中にカルガモのご機嫌伺がいが加わっている。

 カルガモ一族には悪いが、公園の看板を尊重して「餌はあげる」つもりはなく、見物だけだが・・・

(2012)

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