パン、カブ、小魚

 朝早く大きな鳴き声で目覚まし時計代わりなのは嫌われ者のカラスだが、彼ら とて 早起きをするのは生きる糧を求めて必死だからだろう。
 冬の朝、我が家の庭にも沢山の鳥達がやって来る。ヒヨドリは庭の主のような 顔をして餌さ台を占領しており、メジロがときたま餌さ台のパンくず、リンゴや ミカンをあさりに来ると あたかも仇が来たかのように追い散らしている。
そろそろウグイスも「チッ、チッ」と小さな声でさえずりながら小枝から小枝へ飛び 移って いるのが見られる頃である。
 それらの鳥達が餌さ台の上から弾き飛ばした餌が下に落ちれば、 それをスズメ やキジバトが丁寧に拾っている。メジロは台の上の 餌がなくなっても侘び助や ヒメ椿などの椿の花びらに留まっては 蜜を吸い、花から花へと飛び移る様は 可愛らしいものだ。

   東京は大森の先の埋立地に『臨海野鳥公園』がある。
巨大な東京の胃袋を賄っている太田市場の隣地である。
入江と干潟が鳥達の為に確保され、また観察舎からは風や寒さを避けながら鳥達を観察できる。
大きな屋根のつまにカブや魚のイラストが描かれた太田市場のいらかが間近に見えるこの場所には鳥達が安心して留まることが出来そうである。

 カモメや川鵜、あるいはカモの類は群れて餌をあさり休息している。
ここでは鳥達の生態について詳しく説明してくれるレンジャーの話しにも興味は 尽きない。
強い風に吹かれると鳥達はいつも風上に向かって立ち あるいは水面に浮いて いるそうである、 羽根が逆立ってしまうからだろう。
白い羽根でとてもスマートなサギの餌さ取りは見ていて飽きない。まずは水面をジィーっと にらんでたたずみ、長いくちばしで小魚を一瞬の内についばむ。
またおなじサギの仲間だが底土を長い脚のつま先で器用にかき混ぜながら出て くる小虫を すばやく捕まえる青い鳥もそうだ。

 冬のあいだは渡り鳥たちで一杯のこの場所でも、それらの飛び舞う姿を見る ことができるのも あと僅かの期間、季節は足早に移り変わる。

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