ねぎ

 例えば「すき焼」をするとしよう。熱くなり油を引いた鉄鍋に霜降り肉をジュ〜っと 並べ、材料 を共に並べるとしても長ネギの切ったやつを乗せておかないといけない。
 「寄せ鍋」でもいい、 本だしで丁寧に作った下地で満たされた土鍋でも材料を入れ、初めに 長ネギを入れないと本当の味が出ない ように思う。
もちろん椎茸や、ハマグリなどの重要な出汁味ほど主役ではないのだけれど・・・これが欠け てはどうにも ならない、すき焼きらしくも寄せ鍋らしくもない。また長ネギは使いみちも多い。

   主役になることは少なくても 、なくてはならない食材である長ネギ、先日ひと株頂戴した。 今ではスーパーなら奇麗に洗われ、長さも切り揃えられた3本ほどの長ネギが入ったビニール包みを 買ってくることが多く、ネギってどんな風に畑にあるのか忘れてしまっていた。
  せいぜい知っているのは白い部分には土を被されていたんだろう・・・と言うほどの拙い知識でしかない。

 ネギの一株は先日のわが個展の折にお気に入りを選んで頂いた先輩のお宅に作品を お届けした折に頂戴したのである。これまでも小生の作品を気に入って頂いて、これで訪問は 何回目かにはなる。
「今朝、畑で掘ったネギ」 と言うなり大きなビニール袋に突っ込んだ、ずしりと重たい長ネギの ひと束を我が車のトランクに積み込んで下さった。
  先輩が東京の東隣の市にある自宅近くで野菜を作り始めてもう何年くらい経つのだろうか、 実業の世界を引退されたあとのことだ。

 北埼玉にあるネギの特産地辺りの風景を想像すると、 思い起こすのはなぜか冷たい北風が 吹きすさぶ、 広くズ〜ッと平らな、高くした畝の上に飛び出した青ネギや、ねぎ坊主が寒そうに 風に吹かれてチョロチョロ揺れ動いている畑のさまである。
  或いは青ネギの先は既に痛んで少し茶色で、思い出すのは「木枯らし紋二郎」の 風景である。
  しかし、その寒風がネギの甘さを引き出すというのだから、北関東のカラッ風も満更ではない。
少し北西になるが群馬県の山間の有名な長ネギ産地、ネギは太く白い部分の柔らかさは口に 入ると溶けるように柔らかで鍋物には素晴らしく良く合う。  風土は人だけでなくネギさえ作るらしい。

 厳しい気候の土地柄が空っ風とカカア天下の原産の条件だったかもしれないが、お付き合い 頂いて味わいのある、ご当地出身の知人友人は身の回りに数多い。 閑話休題

 先日ひと株のネギを頂戴した先輩は南関東のご出身だけれど 小生は数十年前の 駆け出し サラリーマン時代からお世話になってきた方、今ではご自身は晴耕雨読、シーズンには鮎の 友釣りを楽しむ俳人である。公私にわたる長いお付き合いを頂いた二人ではあるが、彼そして 小生について今の姿を想像できないと古きを知る友人達は云うのだが・・・

 さて、我が家に持ち帰った長ネギのひと束をカミさんと眺め「ネギのひと株って、こんなに大き かったんだ!」と二人で 感心しながら眺めた。
ネギの調理について今さら書くまでもないが、その夜は早速新鮮なネギを切りフライパンで 作った「焼きネギ」を肴に美味しくお酒を頂いた。少々塩を振ったネギは甘く、柔らかだった。

 ひと株は気温の低い陽の当らない裏庭に  根元を少し土に隠しながら置いてあったが、長持ち をして全てをいただき終えるまで、 やがて20日程も楽しませていただいた。
 

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