ミルクセーキ

 喫茶店というものは古語になった様に店の数が減ってしまった。
今では コーヒーを飲みたいならばコーヒー・バーのようなカウンターでボリュームたっぷりで安く 美味しい紙カップ入りを求め 小さな椅子に腰を掛けながら、あるいはカップを手に歩きながら コーヒーを楽しめば良いという時代になった。

 カウンターの向こうで店のマスターがサイホンやドリップで時間をかけて香りの 高いコーヒーを いれ、ゆったりとしたソファに腰を掛け、店内に流れる名曲に耳を傾けるなどとは忙しい時代に マッチしなくなったのだろうと思う。喫茶店はゆったりした時間を売る商売だ。

 最近その手の店に立ち寄ることがなくなったから最新事情には疎いけれど、店のメニューは どうなっているだろうか。
深夜近くまで酒を飲んだ後でも「お汁粉」、「ぜんざい」食べるよと・・・云っていた若く元気だった 頃や、家族と入った喫茶店でいきなり「フルーツ・パフエ」を頼んで山盛りになったアイスクリーム や餡など果物と共にペロリと平らげたりしたものだから、そんなものを食べるとはビックリ・・・と 今でも 折に触れて語り草になっている。
  ミルクセーキ・・・ミルクと卵のミックスも古語の部類かな?、滋養豊かな冷たい飲み物である。

 我が家の飼い猫 「ルイ」は盛夏の暑さにぐったりしていた、既に13歳を越えた熟年ネコだ。
何処か悪いのではないかと 行き付けの獣医へ連れて行くと看護助手にマンガ本を手渡された、 それは製薬会社の作ったもので、年寄り ネコが罹りやすい腎臓の病の症状解説をしていた。
水を大量に飲む、元気がない、食欲が落ちる・・・などなどでルイの症状に当てはまる。
獣医さん の見立てもその通りで粉末の腎臓病の飲み薬を処方してくれた。
ところが錠剤なら何とか口をこじ開けて飲ませることが出来るが、水にも溶けない粉末を飲ませ るのは容易でない、結局この挑戦は人間側の惨敗に終わってしまった。

 そこで思いついたのはミルクセーキ、カミさんがウズラ卵を一パック買ってきた、これにミルクを 混ぜる嗅がせるとルイの目の色は変わり見事に食いついた。皿はたちまち空になり作戦は 人間側の勝利となって食欲も増進、これで無事に暑い夏を乗り切ることが出来たのである。
だからといって獣医さんの見立てた病が治ったと言うわけではなかろうけれど、手術や透析など ができる訳でもなし、飲む水の量も冬場は平常に戻っていたから、今ではこの病と丁寧にお付き 合いをしてゆくしか仕方ないのかなと思っている。

 近頃は朝食用の 人間様の玉子(これはニワトリ)は 時折少しばかりくすねられてルイのミルクセーキの材料と なり、お陰で人間様は穴あき目玉焼きでがまんをしている。
  もちろんルイは大好物を貰って朝からご機嫌、いつも庭を眺める椅子の上に載り、お化粧に 余念がない背中を見せている。

(2008)                                                                                  

 

 

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