ミカンとリンゴ
ミカン箱は深さのない小振りな木製で、中にはぎっしりと艶々したミカンが整然と詰め込まれていた
次第に寒さつのる頃からが季節で、火鉢を囲んで過ごす団欒のひと時、小袋から取り除く筋が炭火に焦げる香りが風物詩の様だった
川田正子は「みかんの花咲く丘」で終戦翌年には海を眺め、母を偲ぶ歌詞を唄い国民が平和な世を願う気持ちが伝わって来たものだ
毎年、正月用に求めたミカン箱は年末から中身が段々消え始め、正月三が日過ぎには空箱になり、しっかりした木箱は再利用として物入れにするのに適当だった
一方、りんご箱は大きく深さもあり、蓋は片側の大きな釘を引き抜いてから蓋板を「ギィー…」とこじ開けた、中には籾殻が一杯に詰め込まれ、それを除けると真っ赤なリンゴが顔をのぞかせた
並木路子の唄う「リンゴの唄」がぴったりで明るくなるような、美空ひばりが少し世相の落ち着いた高度成長前夜を「リンゴ追分」で歌ったのも懐かしい
国光、紅玉などが赤いリンゴで少し高級なインドリンゴはクリーム色のような黄色い肌で香りがとても高かった、赤いリンゴは丸かじりするのが定番だったけれど、歯茎から少しにじんだ血がリンゴについたり…考えてみるとその頃の栄養状態のせいだったかも知れない
当時、リンゴの空き箱は勉強机に転用されてバラック住宅で学童の援けになり、いつまでもリンゴの香りを残して学童の鼻をくすぐった
数年前の英国旅行では1st.クラスのパスで自由に移動する楽しい旅だったが、午後の車内サービスにはフルーツが供されていた(朝便では完全なイングリッシュ・ブレックファーストが提供された)、その中のリンゴは今の日本ではとてもお目に掛れないとても小さなものだったけれど、薫り高く
そしてとても固く、まさに久し振りにリンゴにお目に掛った感じがした
最近ではリンゴの種類もどんどん改良されて美味くなり、果肉も柔らかくなったのか、また形も大振りなので切って皮をむかないと食べられないほどにな
って、丸かじりの「ガブっ、パリッ」とはほど遠くなっている
現在はミカンもリンゴも梱包は段ボール箱になったけれど、ミカンは概ねザックリと、リンゴは大きな個体の移動を抑える合成樹脂の敷物に載って収まっているようだ
先年カミさんが友人に聞いたと云い、ある産地農家にミカン箱を注文していた、やって来たミカン箱にはいろいろな種類の柑橘が詰まっていた、愛媛からやって来た新鮮なミカンたちは伊予かん、
はるか、デコポン、ネーブル、ポンカン、八朔から大きな文旦まで違った味わいや香りを食卓に供してくれて、その後は毎年のみかんシーズンには我が家の楽しみとなって続いている |
|
|
一方のリンゴだが、この方は小生の友人が紹介してくれた岩手県の産地なのだが、訳あり品のお値打ち提供品とのこと・・・ためしに注文してみると確かに小さな擦り傷やいびつな形はスーパーの店頭に並べるには向かないかも知れない、ところがナイフを入れると密がにじんだ切り口、香り、口に広がる
フジの甘さは申し分ない、朝食のデザートに昼食後にと新鮮な味わいを楽しませてもらった
訳あり品を産地が多く造る訳もなく、期間限定品だが今シーズンも大いに楽しませて頂いた
秋には愛媛からのみかん箱には、時に庭で実ったものか柿の実が一緒に詰められてきたこともある、ご馳走さまでした
(2013)
想い出落書き帖のTOPへ戻る
|