幕の内

 東海道新幹線に乗って久しぶりに西に向かった。
車内はちょっと混んでいて運良く入り口ドア直ぐの座席を確保することができた。
予定では名古屋を通過する頃にちょうど昼になる、その先 京都で私鉄電車への 乗換えも含めるとあと3時間程の行程だったので車内販売の弁当で昼食を済ませ ておこうと考えた。この頃では車内販売がとてもスマートに、エレガントになって 大昔の大声呼ばわりなど無く、小さなオルゴールの音を流して可愛いお嬢さんが、 ゆったりと左右を交互に見回し、乗客と目と目が触れ合うタイミングを計っている
らしい。そして何人も回ってきたお嬢さんのいずれもが若くスラリとした十人並み 以上、乗客とのやり取りも躾のよさが感じ取れたのはやはり民営化の効果か?・・・
 はたまた単なるこちらのひいき目か?

 それに引き換え、一番端のわがシートバックと仕切り壁の間の小さなテーブルに 腰掛けた中年のご婦人二人、つまり筆者と隣席の乗客の頭の直ぐ上では列車が 目的駅に到着するまで寸時も休まずに普通の声でしゃべり続けていた、人の気も 知らないで、あの人達「オバタリアン」の健在振りを示していたに違いない。

 それはさておき弁当は幕の内を選んだ。それには玉子焼き、椎茸の煮物、はす、 かまぼこ一切れ、焼き魚など、そして日の丸ご飯、入れ物は綺麗に印刷された 化粧箱になっていたが、中身は黒い煙をたなびかせ走っていた大昔の汽車時代 の木の折詰めと少しも変わる事の無い懐かしいものだった。

 さて、ビジネス街でも幕の内弁当をランチに提供する店は多い。A定食などと 名前が変わっていることがあっても、長いサラリーマン生活ではこういった定食 ものの栄養バランスは良いのだと・・いつか新聞で読んだことがある。
長く弁当界の王座を占めてきたであろう「幕の内」の実力は確かな様である。

 幕の内といえば相撲だが、それこそ実力で勝ち抜く力士たちの最高の晴れ舞台。
  力士たちの目標はそこにある。
 

 

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