命の水

 毎晩就寝前には台所で一杯の冷たい水を飲む、我が家の辺りの蛇口からの水道水は飲んで十分に美味しいのが幸せだと思って居る
早朝ウオーキングに出る前にコップ一杯の水を頂く、昨夜と同じように身に染みわたるような美味しさで、これを小生は「命の水」と名付けている

 さて、こうして始る朝のウオーキングは近くの公園へ向かう途中で飼主男性に連れられた二匹のワンちゃんとすれ違う、飼い主は何時も背筋をしゃんと伸ばして前を向き足早に歩を進めている、毛長の中型犬達は飼主同様に正面を向いていつも脇目も振らずに飼主の左側を直進していた
 ある朝、飼主と挨拶を交わしたのを切っ掛けに二匹のワンちゃんの頭を撫でたのだが、それ以来とき折りのすれ違い時に二匹は尻尾を大きく振りながら小走りで近づいてくるようになった、クリーム毛色が年長でこげ茶はまだ若い子供らしい
 何時も生真面目に朝の散歩をしているように見えていたが、最近小生との挨拶交換時に二匹の頭や体を撫でてあげた後に、こげ茶が年長にことさらまとわりつき、路面上で取っ組み合いのじゃれ合いをする場面が毎度になった、飼い主は小生のことを覚えたんだ…と云って下さるが、ワンちゃん同志は謹厳さをかなぐり捨てて、どんな気持ちで取っ組み合いをするのか、けっこう挨拶順のあと先などが原因で二匹の間でもめているのだろうか?

 公園の入り口近くで出会うのがバーニーズ・マウンテン・ドックの大きな姿、聞き覚えた名前を小生が遠くから呼ぶと体をゆすり飼主と結ばれたリードを引っ張りながら早足でやってきて、小生の太もも辺りまである大きな体をもたせ掛けてくる、50s近くの巨体で真に人懐っこい、小生が体を引けばそのまま地面に横倒しになってしまい撫でてくれと仰向けに腹を出す始末、暑い頃にはそのままの姿が長いので飼主さんは立たせて歩かせるのに一苦労、バッグからドライ・フードを一粒出して歩いて貰っている、少し大人になり寒気厳しいこの頃では寒さも気にならないのか機嫌よく帰路に着いてくれる、小生よりも一時間以上早起きの飼主さんは早く公園に来ての帰路だ、脇を歩く大型犬の後姿はしゃんとしてとても立派である

 やがて公園の中心に行くと出会うのは三匹のワンちゃんを連れたご夫婦、言葉を交わしたのは子犬のシェパード連れを見つけて声を掛けたのが始まり
 最近では猫よりも小さいような愛玩犬の散歩が多い中で大きな耳をぴんと立てた凛々しい姿、子犬の頃はなかなか云う事を聞かないヤンチャでじゃれ付くばかり、ご主人はそれから教育に懸命なようだ、テニスボールを投げて走らせ…咥えて持ち帰り再度の投球を子犬はねだる、フリスキーも大好きで円盤を空中で飛びつきキャッチする
 シェパードの教育に余計なお邪魔をしてはならないと別の二匹に向う、一匹はシープドッグで三匹の中では一番年長だとか・・・奥さんの手から貰うドライフーズだけを楽しみにしているらしい、そしてミニ・プードル君はちょっとシャイだけれど「キュ〜ン」と鼻を鳴らしながら近づいてくれた、今では小生は勝手に「キュン、キュン」と名前代わりに呼んで短い鼻面を撫でさせてもらっている

 ウオーキングを終えて帰宅すると庭の井戸ポンプをこいでバケツに新鮮な水を満たす、やって来る街ネコちゃん達の飲み水の用意のつもりだ、庭を横切る猫たちがバケツの縁に手をかけて時おり美味しそうに水を飲む姿がある、古くからの井戸は戦時中の防火用に用意してあったもの、人間様の命の水用に役立つときが来ないことを願っている  

 

(2014)
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