葛(くず)

 春がやってきた。花粉症に罹っているわがカミさんなどは悲しくもないのに涙を流して毎日を泣き暮らしている。全く因果なことで、この科学時代に進歩に反比例する形で このような病が蔓延するなど、症状に苦しんで居られる方々の多さに何とお慰め申し上げて良いやらわからない。

 しかし、花の先発の「白木蓮」もほころんだし、鉢植えの桃にも桃色の花が満開である。間もなく東京でも桜の花が咲き始めるだろう。

   サクラの素晴らしさについて、今更、筆者が申し上げるのも野暮と言うものだが、桜木が「私は、ここで寒い冬を我慢していたんですよ。」とばかりに枯れ山にパッと咲く。
それも、あちらこちらから「ここにもいるよ」と、一斉に咲き競っている様に思う。

 日本中に桜の名所は数々在るが、吉野山の桜も是非一度はご覧頂きたいものだ。山桜(葉と花が同時に出る)が主役で、品の良い色合いが好ましい。
概ね4月の第1週から第3週くらいまで約3週間かけて、山裾から咲き始め標高差300m位を登りながら咲く。その最盛期には、目の前の斜面が、パアッと一面花に埋め尽されてまるで芝居の緞帳の様に見えることになる。
 「花の吉野山」だ。

   

(写真は日本花の会のホームページから)

 花といえばダンゴ。だが吉野山なら「吉野葛」を思い起こして頂きたい。
葛餅、葛きり、葛菓子、葛湯。その昔は子供が風邪でもひこうものなら早速に葛湯を作って 飲ませてくれたものだ。うす甘いトロッとした独特の味で風邪も治癒した様だ、今でも愛用している。 糸のような「葛きり」はなべ入れても美味しいが、溶いた葛を薄く平たく延ばして冷やした葛きりに 甘い黒蜜をかけた、金沢の料亭で頂いた吉野葛を使ったデザートはヒヤッと冷たくて真に旨かった。

 極寒の季節に植物の葛根から手間をかけて精製するが、葛根が入手難になってきて、今では葛と言っても他の澱粉類が供されているそうだ。
最上質の微細澱粉である「葛粉」は貴重な伝統品であると思う。

  ちょっと高価だが「吉野本葛」という。

 

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