黒ねじ
車を運転しての長い一人旅では列車の旅などのように隣り合った同士のよもやま話などの機会もない、ひたすらハンドルを握り前を見つめているような味気のない旅だろうと思うと、それがそうでもない。 スケッチブック片手にブラブラしていると「あちらの景色はお奨めですよと」とガイドばりの道案内をして下さる愛犬散歩中の奥さん、古道の峠で「昔の景色はこうだったのに、変わってしまって・・・」と昔 を想い語る老夫婦、どれもが持参のガイドブックにはない新鮮で有益な情報で楽しい。
それから二日後のこと福井県の吉崎を訪ねた、ここには吉崎御坊と云う浄土真宗の大きな堂宇がそびえ立つ、蓮如上人ゆかりの地である。我が旅路は芭蕉翁の 「おくの細道」の足跡を辿る道である、本文に吉崎の名前はあっても芭蕉翁が拝観したとは記されないが折角のこと拝観をさせて頂いた。 さて、間もなく正午と言う時分、門前の売店併設のそばカウンターの暖簾をくぐった。カウンターの向こうで亭主がスポーツ紙を読んでいた。「ちょうど昼だから」と小生、「全国的に昼です」が亭主・・・ざるそばを注文、それから「お一人ですか?」から始まりこの地の話などの雑談、そのうち小生が芭蕉翁の道を辿っているという話題に移った辺りから亭主の質問攻めが始まった、「芭蕉がここへ来たのは本当か?」、「長い旅の道筋はどうだったか?」など、話ははずみ持ち合わせの絵を見せながら話は続いた。
ざるそばが出来上がり、そば猪口はサービスなのかあるいは話に夢中で手元が狂ったのか「そばつゆ」がなみなみと注がれている、晒しねぎを加えても汁が猪口から溢れ出しそう、そばをつけても汁が溢れ出さないように気をつけながら・・・・片や次々の質問、話題に応じながら・・・味がどんなだったかを気にする糸間もなく賑やかな会話の昼飯がすんだ。
吉崎への目的は芦原ゴルフ場にある遺跡訪問の為だった、ガイドブックに「ゴルフ場の前庭にある
、見学するにはゴルフ場には断らなければならないだろう」と書いてあった。プレーをしないで昼日中ゴルフ場に入るのは奇妙な感じがする、ゲストカウンターの応対はごく親切だった。ゴルフ場の男性に案内されてクラブハウスを通り抜け、
スタートのティーグラウンドと9番グリーンの間を抜けてずんずん進んでゆく、9番コースの中ほど、海岸崖との間の林に「汐越しの松」は横たわっていた。いまは枯れてねじれた太い幹
だけを横たえてはいるが、300年の昔を忍ばせながら大事に保存されているようだった。別れ際に案内の男性と名刺の交換をしたがマネージャーさん直々にご案内して頂いたのだった。 (2009)
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