カシューナッツ

 ドイツから客人がやってくるのを成田空港まで出迎えに行く 、我が家を基地にして東京や関西の 知人と逢う久方ぶりの訪日なのだ。トビトビではあるが足掛け数週間は我が家に滞在する予定なので 荷物は相当大きくなるとは覚悟していた。

 便は定刻に到着し客人は旅行荷物を受け取り、出て来たときには航空会社サービス職員の押す カートには 山のようなスーツケースやダンボール箱が載せられていた。
長旅にも疲れを見せない元気な客人との再会、そしてカートを職員から引継ぎパーキングの車へと 向った、だが客人の手には「これは大事なもの」・・・と何やら荷物をぶら下げたままだった。

 混雑にも巻き込まれずに高速道路を走りぬけ我が家へと着いたのは夕方近く、一休みする程なく夕食 となる、 客人が旅装を解くなり出てきた大事な物の正体は、「これは、欠かせないもの・・・」と空色瓶の45度の ドライ・ジンと緑色のベルモットのExtra Dryの瓶、フランクフルトの免税店で買った2本の瓶はどれも 有名なレーベルで日本でも馴染み深い銘柄だったけれど1リットル瓶であり、日本で販売されている 750dl瓶より一回り大きい瓶である。
客人の記憶では以前の日本ではなかなか見つけにくいかった からと言うことだった、もう何十年も前から欠かしたことのない夕食の食前酒だそうな。
 と言うわけで、みやげのドイツ風のサラミソーセージやチーズなどをつまみに、当家ではその夜から 晩酌は冷たい「ドライ・マティーニ」になった。
ドライ・マティーニにはライムがいる、普段見向きもしないライムもスーパーで仕入れ、タンブラーには
冷蔵庫の柔らかい氷では旨くないと近くのコンビニで袋入りの氷を調達してきた、適当な大きさの 氷片
はガラスに当たって心地よい音を出し、オリーブの実がタンブラーの底にあった。

   まるで魔法のように大きな荷物からは次から次へといろいろな品が出てくる、「これはとっても美味しい から・・・」と出てきた「カシューナッツ」缶、プルトップのふたを取ると出てきたナッツは塩味の香ばしい ナッツでドライ・マティーニとはとても相性が良いようだった。

 それから何日か、ジンの瓶はすぐに空になって酒屋で同じレーベルの750dl瓶を調達してきた、チーズやサラミ、 ライムも近くのスーパーなどで調達できた。ライムは店によってメキシコ産と国産がそれぞれだったけれど 品質にはずい分ばらつきがあるようだった。
  カシューナッツはみやげ物のような味を見つけ出すことが出来なかった、近くのスーパーを数軒、青山、 銀座などの輸入食品専門店にも当たってみたが・・・みやげ物のようなカリッとした美味にはいまだに お目にかかれない。

 客人は秋の日本を楽しみ、旧友との再会の予定をつつがなくこなして帰っていった 。
我が家ではあれ以来晩酌にはドライ・マティーニの日が多くなったが、ジンの瓶はもう何本も空いたのに ほんの少しだけ加えるベルモットExtra Dryの瓶はまだ交代していない。
  ジンはイギリス製、ベルモットはフランス原産だがこのレーベルは北イタリア製、 あのカシューナッツは アメリカ原産でありドイツで買ったとは云え缶詰だったのに、こればかりはまだ見つけ出せないまヽ
今日も晩酌には冷たいドライ・マティーニを啜ることになる・・・「頂きます」

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