機内食

 絵を描き始めてから取材と称しての海外旅行も多くなった。これはエコノミーな旅行の話。
昼前後に出発するヨーロッパ線や 遅い午後出発のアメリカ便でも成田を発ち巡航に入れ ば先ずは飲み物のサービスである。つまみの袋を切って おかきやピーナツを口に入れ ながらの飲み物は 冷たいビールと決めている。アルコールを口にするには中途半端な 時間なのだけれど・・・どうせ時差の調整をするんだから・・・と自分に言い聞かせる。
「ビールのお替り下さい!」、忙しい最中なのにフライト・アテンダントは気持ちよく追加の 冷たい缶を持ってきてくれる。
 機内食造りは芸術的だと思う、これを盛付けるのは手先の不器用な連中ではとても手に 負えないだろう。  メニューはこんなもの・・・

ハンバーグステーキきのこデミグラスソース添え、又は 赤魚の煮付けご飯添え、
どちらかをチョイス
シーフードマリネ・カクテルベジタブル添え、マカロニサラダ
素麺、豆乳のブラマンジェ
コーヒー/紅茶/緑茶
 
 
成田空港

 これらがキチンと小さなトレーで座席前のテーブルに載る。献立を考え、調理するキッチン には頭が下がる。座席前ポケット入っているメニューには いつも変らぬ品揃えが読める、 10年、20年たっても献立の大筋は変らない。小さくまとめる細工は大したものだ。
 だが、環境の移り変わりに応えて微妙に変化している、いまでは料理を温めてくれるのは トレー自体の発熱である。ナイフ・フォークは以前は金属だったし、胡椒・塩は可愛らしい ガラスポット入りだったのが、今 それらはプラスチック製だし 調味料は袋入りになった。
 「食事のお飲み物は?」と聞かれたら「赤ワイン、2本」と注文する、これからの長途に備え るつもり。大陸の向こうへ行くには12時間は覚悟しなければならない、・・・もっと短時間なら よほど旅は楽チンなのだけれど・・・などと思いながら透明な袋を切って紙ナプキンに包まれ たナイフ・フォーク、そして箸を取る。
 ワインならフランスの航空会社、ウイスキーなら英国機が旨い・・・とは気のせいだろうが・・・ 食後の用足しの序でにギャレーに立ち寄ってアテンダントに「ナイト・キャップの水割りを 貰おうかな・・・」 などと言いながらダブルのそれを席に届けてもらう。
 国内ではロードショーまえの劇映画などを見つけ出し、チビリちびりとやりながら小さな画面 を見ている間にグラスは空になり、瞼も重くなれば飛行時間の半分は夢の中で過ごせるのだ。    
   さて、長い旅路の残りもあと2時間か! という頃の  軽食メニューは・・・

もうアルコールは飲まない。
 ロンドン・ヒースロー空港
ペンネミートソースグラタン
地中海風野菜のマリネ
稲荷寿司/蕗土佐煮
フルーツ
イタリアントマトロール
コーヒー/紅茶/緑茶

 その後の食事片付け、着陸準備作業、空港着陸までの短い時間のアテンダントたちの奮闘 振りはすさまじい、訓練で身についた動きとは云っても きちん片付け乗務員シートに着席 したあと彼女達のホッとした面持ちに つい「ご苦労さんでした」と声を掛けてしまう。
  大柄な小生は足元の楽な非常口座席をお願いすることが多く、アテンダント席と向かい合い、 僅かな時間にも少しの会話もある。小生も飛行中ずっと膝に載せていた毛布を外し折りたたむ。
 昔、アメリカの航空会社機でサンフランシスコからの帰途だった、食事時のことスチュワーデス が狭い座席に居る小生の前へ食事トレーを傾けて渡した為に、クリーム・ケーキが皿から落ち 小生の膝の上にコロリと転がったてしまった。その時に小生が膝に巻いていた毛布が汚れから 衣服を守ってくれたこともあり、それ以来 座席につくときにはこれを欠かさない。
 その「落ちたケーキは・・・?」、くだんのスチュワーデスは手掴みで持ち去り、代りのケーキ と毛布を後で届けてくれた、「申し訳ありませんでした」の言葉は・・・なかったと思う。

(2007)

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