かっぱ

 ドイツ南部、バイエルンのオーバーアマガウで泊ったホテルの話、この地方 の山小屋風の 小さなホテル、フロントではプリントアウトされた紙を手に持ち元気なおばさんが出迎え、「ナカ ムラ・・・」などとつぶやきながら宿帳に必要項目を写し取った後 シグネチャーを求めてきた。

 ホテル内の説明、部屋の鍵でホテル玄関も開けることが出来るので遅くても心配ないことや、 無線LANが部屋で自由に使えるとネットのパスワードも渡された。ゆっくりな英語で「この町は 小さいけれど・・・」と観光協会発行の地図を示し この町の観光案内、家々の壁に綺麗な絵が 趣向を凝らして描かれた可愛らしい保養地だとわかった。
 ついでにお奨めのレストランを尋ねると地図の上にいくつかの候補を書き加えてくれた。 連泊である 郷土料理のお奨め店のや中華料理店もあった「・・・でもタイ料理だったかな?」 などといいながら・・・試しに聞いた日本料理店は「残念ながら・・・」と言うことだった。

 このホテルにめぐり合ったのはネットのホテル予約サイトだ。今回の旅行では20日間の旅行前半 がノルウエーだったので夏の混雑を予想して早めの4ヶ月前から予約スタートした。予約では先ず @国内業者のホテル案内サイトで円貨払、A外国系のホテル予約サイトではノルウエー・クローネ 払、そしてB市内観光カードをセットしたオスロのホテル予約サイトは同じくノルウエー・クローネ 払など、何れも予約時点での前払いだが、それぞれサイトの長所を選んで予約したつもりだった。

 別に旅行後半の南ドイツ地方のホテル予約では初めて利用するネット予約サイト を利用した。 そのサイトではカード番号による利用保障と、利用時のユーロ払いが条件だったが、予約を始め るときわめてスムーズに予約が成立する、直ぐにE-メールで日本語のホテルの利用案内が送られ てくる。前払いサイトのような現地に「ヴァウチャー(予約確定書/宿泊券)」をプリントして持参と言う ような仰々しさはない。今回4ヶ所ほどこのサイトを利用して泊ったがどのホテルでもフロントはパソ コン画面に向かうだけで部屋の鍵を手渡すほどの、スムーズで気持ちの良い受付ばかりだった。
 それに較べても4ヶ月前に予約し、クローネで支払済みのサイトAが、宿泊の一週間前になって 「ダブル・ ブッキング」を理由に利用ホテルの変更を迫ってきたのには 驚き、あきれてしまった・・・

 さて、オーバーアマガウに話は戻る。初日の夕食はお奨めの中からバイエルン郷土料理店を 選択した、店内は地元の家族や観光客で一杯、太った年配の夫婦が悠然と 差配する中でワイワイ がやがや、われわれ夫婦も地元ビールによく合う料理を楽しんだ。
 翌朝ホテルの朝食会場、ゆっくりした大声のおしゃべりは おばさんの語り口で、決してこちらを 日本人と見ての話し方ではなかったようである。 「昨夜の夕食はどうだった?」と聞くのでお奨めの 通りでたいへん気に入ったよ・・・」と云うと 「そうだろう」と言う様なしぐさを見せた。

 この日の観光はドイツ一番の高所である「ツークシュピッツェ(2953m)」への登山など を楽しんだ。
夕食はホテルから50mほどの中華料理店にした、店に近づくと窓には写真入のビラが何枚も貼って ある、「NEU SUSHI」・・・貼られたビラの写真には寿司桶の握りや皿に載せた巻物などが見える。

 中国人店主はメニューを見せながら飛び切りホットなタイ料理に中国料理はどうか・・・などと愛想 が良い、ココナッツ・ミルク入りのタイ風スープ、烏賊・海老の炒め物、マーボー豆腐を注文した。
NEU SUSHIについて質問した、ビラを見ると印刷物は如何にもよく出来すぎている、それにここは 山の中だ・・・と言う訳で材料に鮮度の心配のない「かっぱ」を注文した、「きゅうり」なら毎朝食ドイツ でも食べている。という訳で夕食の献立はタイ、中国、日本とお奨めの通りに国際食になった。
 さて、飯台に載った「かっぱ」はガリをお供に前菜のようにテーブルにやってきた、それは見かけも 味もまさにそれらしかった・・・中国人店主はしきりに感想を聞く、こちらも感想を率直に伝えた 「このかっぱは ドイツではマァいいだろ、でも、日本ではこんなに硬くは巻かないよ・・・」などと。

 この店の寿司はまさにNEU(ノイ、新しい)献立だった らしい、熱心に感想を聴きたがった中国人店主の態度からそれが感じ取れた、もしかすると営業用に寿司をセットかキットのようにして店に 卸している商売がドイツにはあるのだろうか?・・・などと想像してみた。

  次の朝この報告はホテルのおばさんに伝えたが 寿司は推薦しなかった、おばさんは今日から町で スポーツ・イベントがあり、この町のホテルは満室だと 満席のテーブルの間を大忙しに飛び回る、ホテルは一人で切り盛りするおばさんのお城のようだ。

 

   「まるでスーパー・ママさんだね」と言うと 「・・・ばあさん  だね!」と答えが返ってきた。
                                                          (2008)

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