カン詰糧食

 彼女は朝晩の食事として某メーカー製の幾種類かのカン詰をローテーションで 食べている、それぞれマグロベースに鰹節、白身の魚とか鳥のササミなどが 載せら れていて、おなじものが続かないように順繰りに選ぶので飽きる事はあまりない。
  それでもやはり食欲がないときやお腹が張って(便秘などで)どうしても食べたく ない時もあるので、そんな時は食欲増進用に鰹節を少し混ぜてもらっていたのだが、 最近では毎食少しだけお皿の底に鰹節を載せてもらうことになってしまった。
  こんな食生活がもう10年も続いていて、エビや鯛とかヒラメ入りなどのもっと 美味し そうなカン詰も買ってきたことがあるのだけれど何故か彼女の好みに合わないようで、 やっぱり店先に山のように積み上げられている在り来たりのカン詰に落着いている。

 おかしいのは鯵の干物や刺身など普通だったら大喜びのはずの食べ物を目の前に 出されても顔を背けるか、顔をしかめて逃げていってしまうのが落ちである。
ビタミンなどの栄養バランスは普段から固形のドライから取るようにしていてこの方は 順調に食べてはいるようなのだが・・・

 家族の食事時間にはテーブルの周りで欲しそうな顔をすることもなく、自分の食事 は何時もの決まった場所・・・階段の踊り場・・・で貰うものと 思い込んでいるらしい。
鰹節は大好物で何時の頃からかオヤツに少しだけ貰うことになって、その時間になる と何処からともなくトコトコとやって来て、この時ばかりは決まった椅子の上にチョコン と座って静かに待っている、まるで時計を持っているかのように正確である。
小さな皿に鰹節を載せてもらったら椅子から降りて足元でお座り、そして頭をなでて もらってから貰うのである、少しだからアッと言う間に食べ終えるが大満足である。

 その他の好物といえばパン、それも食パンを小さくちぎってもらってほんの少々、 バターを塗ったものや菓子パンなどは苦手のようであるが、なぜかアンパンは好物の 部類らしい。

 もっとおかしいのは大々好物の桜の葉っぱ、どうしてそうなったのかは解らないのだ けれど新芽の出てくる頃 桜の若葉を食べさせろとせがむ。
庭のしだれ桜の下につれて行き少しずつ食べさせてやるのだが、今にも指まで食べら れるのではと思うほどの勢いでむしゃぶりつくのである。
これからの若葉が芽吹く季節には自分から小生の肩に飛び乗り庭につれて行けと 命令するのに違いない、どうやら季節もはっきりとわかるようである。

 我が家のアイドル猫の『ルイ』はまったくの家猫で土の上を歩いたことがなく、 それでいて表に出るのはとても好きなので、庭へは人の肩に載って連れて行ってもらう。
  庭に折りたたみ椅子を出してもらい、その上での日なたボッコも大好きだ、暑くなると 家まで帰るほんの数メートル、運んでもらう人の肩が恋しくなり『ニャ〜ン』と声を掛ける・・・これを日本語に翻訳すると『家の中に連れてって』と言う。
 

 毎年春の個展でも彼女はアイドル、個展マスコットとして今年も会場で絵の中から
「いらっしゃいませ」とお客様に言うつもりです。

 

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