ジャバラ
 
 田植え時に能登半島にある世界農業遺産に認定された輪島白米の千枚田を訪れた。
先人の労苦を経て、今ではサポーターも大変増えて数日前に田植えを終えたというそれぞれの小さな田には短い苗が並んで風になびいていた
段々を見事に重ねる斜面のあぜ道を辿りスケッチのポイントを探していたが、道を次第に下り振り返り見上げると出発点がはるかに天空にあるような気がして、改めて農作業の大変さ を思いやったものだ
 観光地となって今では団体バスもたくさん立ち寄る、パーキングの売店には千枚田産のお米の熱々おにぎりが供されている、用意された具のトッピングは指定する一人旅の昼食にはお手ごろ、、オカカと昆布佃煮入りを二つ握ってもらい日本海を背景にする千枚田風景もおかずにして美味しく頂いた
 

 今年のシリーズ取材計画は能登半島先端の禄剛崎から飛騨、伊勢を通り紀伊半島先端の熊野、潮岬まで至ると考えていた取材スタートでの出会いだった
この年の気象はめまぐるしく変わり気温差は大きく、台風も数度来襲するなど季節に合わせたつもりの取材旅行計画も幾度と無く変更せざるを得ないものだった

 東京からの陸路の時間距離がそれぞれめっぽう遠い、その地にたどり付き、その日にも活動するのには一番電車での出発しかない、その取材計画の締めくくりは紀伊半島、出発はやはり早朝だった
この日の天気予報も思わしくなく名古屋に近づくほど厚曇りとなり、乗り換えた紀勢線では曇りが続いていた
臨席のカミさんには「窓カーテンを閉めずに海沿いの景色が眺められるようにお天道様が考えて呉れているんだよ」などと慰めとも付かず呟いたものだが、さて目的地の新宮にたどり着くと見事な青空である・・・お天気の神様のご配慮にお礼を申し上げたものである

   現地で足となるレンタカーは熊野川と別れて北山川沿いに車幅一杯のクネクネ道を走って行った、時折トンネル掘削の現場近くを通り過ぎる、一方通行で交通整理のガードマンが「来年の和歌山国体に向け工事中なので、、完成する来年秋にもまた来てください」などとの慰め言葉が真に迫った、細道を通り抜け北山川を 瀞大橋で渡って三重県へ入る、この川上が有名な景勝渓谷の瀞八丁である
三重県側の国道は整備が進んで楽になったが、国道から地域への往路は大層な隘路を走りやっと丸山千枚田にたどり着いた、道路眼下には午後の陽射しを浴びて見事な棚田風景があった
 こちらの棚田風景は紀伊半島・熊野の山波が折り重なるように連なる背景の中にある

 刈り取りを済ませた棚田は静かに静養の季節に入っているようだったが、よく眺めると周りにイノシシ除けの柵や電気柵の電線が張り巡らさせている、ちょうど手を休めていた農夫に聞くと、昨晩も上の田でミミズを狙って出ていたんだ・・・との話、そ のうえ小さな棚田で丹精するお米まで荒されてはとんでもないことだと思う
また棚田を支える水源について尋ねると・・・小さなお社脇からのほか一つだとか、見た目でそれで間に合うのかと思うような水量に見えた

 その夜は近くの温泉宿に泊まった、透明泉は気持ちよく、地鶏薬膳なるメインディッシュは美味かった、売店にあった丸山千枚田産米の包み2kg入りを土産に買った
隣りに「ジャバラ」と珍しい銘を記したいくつかの商品が目に付いた、聞けば近くの北山村特産品だという
銘の謂れは「邪」を「祓う」からだとか・・・なんでも最近は花粉症に効くとかの効用も伝えられてブレイク中とのこと、件の症状に例年悩まされるカミさんが早速求めていたのはむべなることか・・・・

 翌朝の朝食会場でお揃いの作業ズボンを穿いた若い女性四人が目に付いた、聞くとその柑橘「ジャバラ」の収穫の手伝いにこれから行くのだと快活に答えてくれ、ちょうど今頃が収穫の時期なのだと知った   
   
*ジャバラに付いてはこちらで解説
                                                     (2014)

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